研究課題/領域番号 |
18K00059
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
護山 真也 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (60467199)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ダルマキールティ / プラジュニャーカラグプタ / ジュニャーナシュリーミトラ / 仏教認識論 / ヨーガ行者の直観 / 苦諦 / 結果相似 |
研究実績の概要 |
本年度は,ダルマキールティのヨーガ行者の直観の議論とその背景にある仏教認識論の伝統を広く現代の分析哲学と比較する視点から研究を遂行し,その成果の一部をふくむ『仏教哲学序説』(ぷねうま舎,2021)を公刊した。特にその第4章「知覚と存在―独自相管見」では,ヨーガ行者の直観の対象がなぜ独自相であるのかという問題に関連して,ダルマキールティが知覚の対象として措定した「独自相」概念の多重性を指摘した。 また,インド仏教最後期に活躍したジュニャーナシュリーミトラの『ヨーガ行者の確定』に関して,九州大学での研究会(2020年10月27-30日)にて,片岡啓氏のご協力を得て,そのテキスト校訂・和訳研究の端緒を開くことができた。解読にあたっては,G・トゥッチ撮影写本を参照し,従来の刊本の読みを訂正した校訂を行っている。当該テキストの解題を研究成果として公刊しており,和訳研究も来年度から公刊する予定である。 昨年度から継続してプラジュニャーカラグプタのヨーガ行者の直観およびそれに関連する資料の解読研究を遂行した。今年度は,特に,主宰神証明の論駁を論じた『認識論評釈』第2章11-16偈に対する『認識論評釈荘厳』のテキスト校訂・英訳註研究を公刊した。この箇所では,いわゆる「結果相似」(karyasama)の誤難をめぐる議論で,ニヤーヤ学派による定義とディグナーガの定義との違いについてプラジュニャーカラグプタが独自の見解を示している点が注目される。 また,2020年10月-2021年1月の期間,ライプチヒ大学のエリ・フランコ氏のご協力を得て,『認識論評釈荘厳』の「苦諦」に関する議論の解読研究(オンライン)を実施することができた。ライプチヒ大学の研究チームが進めるヤマーリ註新出写本に基づく最新の成果を参照させていただきながら,苦の定義をめぐるプラジュニャーカラグプタの見解を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『ヨーガ行者の確定』のテキスト校訂と和訳研究は片岡啓氏のご協力により九州大学での研究会を実施できたことで,予定通りの作業を進めることができた。また,ライプチヒ大学のエリ・フランコ氏のご協力により,プラジュニャーカラグプタの苦諦論の解読に着手できたことで,ヨーガ行者の直観の議論の背景が鮮明になった。本来であれば,ライプチヒ大学での国際共同研究や,ソウルで開催予定の国際ダルマキールティ学会などでの研究発表が予定されていたが,コロナ禍のため,いずれもキャンセルとなった。このことは,本研究の遂行の障害となるものであったが,オンライン研究会などでその不足を補った形である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度もコロナ禍の影響により,国際ダルマキールティ学会の再延期など,国際的な場面での研究発表は難しい状況が続きそうである。その代わりに,オンライン研究会などを通して,広く国内外の研究者との意見交換を進めながら,当初の目的である『認識論評釈荘厳』(ヨーガ行者の直観関連個所)と『ヨーガ行者の確定』のテキスト校訂と訳注研究を遂行したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため,予定されていたライプチヒ大学での国際共同研究(2020年度後期)および国際ダルマキールティ学会(ソウル,8月)が中止または延期となり,予定していた旅費が使用できなかったことが差額が生じた理由である。今後の新型コロナウィルスの感染状況にもよるが,その差額は次年度の国際学会または海外での資料調査の旅費に充当する予定である。
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