本年度の成果としては、先ず論考として、以下の2件がある。1「「つれづれ」とは何か・補説」(『語文研究』第130・131合併号、2021年6月)は、『徒然草 無常観を超えた魅力』(中公新書、2020年)に書いた第1章「「つれづれ」とは何か」を補足したものである。近世初期の随筆的仮名草子『ひそめ草』、同じく近世初期の儒学者・堀孤山の随筆『本朝鶴林玉露』などを使用した。2「洒落(しゃらく)・平淡・かるみ―蕉門俳論と宋代詩論―」(『日本文学研究ジャーナル』第18号、2021年6月)は、松尾芭蕉とその門人たちの「かるみ」の言説が、宋代の儒学者の言説や詩論で展開された「洒落」の説と通底することを考証したものである。『不玉宛去来書簡』などの書簡類、近世初期の儒学者の随筆・雑記類(永田善斎『膾余雑録』、長岡恭斎『恭斎備忘録』、那波活所『活所備忘録』)などを使用した。 次に口頭発表としては、「ひねくれ者の美学 ―一三七段をめぐって」(中世文学会春季大会、2021年5月29日)がある。これは徒然草・第一三七段が、室町時代から近代にかけてどのように受容されてきたかを考察したものである。近世中・後期における国学者の受容の代表例として、本居宣長の随筆『玉勝間』を取り上げた。 そのほか、「兼山秘策:人名・書名簡易索引」を、自分の運営するWebページ(閑山子LAB)上で公開した。『兼山秘策』は、主として室鳩巣と青地兼山とのあいだでやり取りされた書簡を集めたもので、そのなかから人名・書名を抽出し、検索できるようにしたものである。 4年間の研究成果としては、17~18世紀の重要な書簡・雑記資料、とりわけ儒学者系の資料を翻刻できたこと、またそのデータをウェブ上に公開できたことが大きい。これによって、次年度以降の近世随筆にかんする研究(科研費・基盤Bに採用)の基礎を固めることができた。
|