本研究の学術的意義は、トラベルライティングの分析にあたって、作品に登場する旅行者の身体/精神の相互関係を長い18世紀の文学史に沿って検討した点に認められる。コーヒーハウスにおけるパンフレット文化、世紀前半の劇作品、さらには中葉のリアリズム小説を視野に入れて時間的・空間的移動が表す多様な文化的意義を明らかにした。とくに、旅行者の人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティに注目することで、身体/精神の相互関係を多面的に描き出すことができた。さらに、長い18世紀におけるイギリスの財政=軍事国家の誕生を21世紀の歴史化に接合する可能性を示すことで、イギリス文学研究の今日的意義を表す研究となっている。
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