研究課題/領域番号 |
18K00463
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
井出 万秀 立教大学, 文学部, 教授 (10232422)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中高ドイツ語二重母音 / 中高ドイツ語単長母音 / 挿絵 / 統合構造 |
研究実績の概要 |
メンテリン聖書活版印刷板のデジタルコピーを入手し,電子データへのトランスクリプションを開始。すべての写本に共通する章を分析対象として選び,それぞれの写本のトランスクリプションを開始。旧約聖書からは創世記、出エジプト記、ヨシュア記、箴言、新約聖書からはマタイ伝を選択。旧約聖書の方が写本間で共通していることから、旧約聖書からの箇所の方が多くなっている。 メンテリン聖書については,分析対象とする章のトランスクリプションを終え,現在は個別の手書き写本のトランスクリプションとしてハイデルベルク写本にとりかかっている。現時点で入手した写本は、ハイデルベルク写本,ニュルンベルク写本,ヴォルフェンビュッテル写本であり,今後,ミュンヘン写本(cgm 204, 205),バーゼル写本,ベルリン写本を入手する必要がある。 体系的に厳密な比較を行う段階には至っていないが、ハイデルベルク写本のトランスクリプションの過程で目立ったことは、語彙レベルでは、特定の語彙が違う語彙に入れ替えられていること、統語レベルでは、特定箇所の省略がなされていることが、形態レベルでは、特に否定が中高ドイツ語で標準的な否定方法に修正されていること、音韻・表記レベルでは、初期新高ドイツ語二重母音化・長単母音化がなされず、中高ドイツ語の古い二重母音と長短母音で表記されていることがあげられる。メンテリン聖書から直接写本されたかどうかは定かではないが、メンテリン聖書のテキストが忠実にそのまま書き写しされているのではないことだけは明らかである。 レイアウトに関しては、ハイデルベルク写本はふんだんに挿絵が挿入されいる点が特徴的であり、何が図像化されているかの究明が今後の研究課題のひとつとなりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
写本をデジタルコピーとして入手する一方で,ハイデルベルク写本のトランスクリプションに取り組んでいる。おおむね順調に進展しているものの,手書き写本の文字解読とトランスクリプションは非常に時間を要する作業であり,今後も更に時間を必要とする。活版印刷と手書き写本の間のはっきりとした体系的な相違が観察されたことで,今後の研究の方向性が定まったことにより,順調な進展に寄与する結果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度中に写本のデジタルコピーをすべて入手することがひとつの大きな目標である。続いて比較箇所のトランスクリプションをすべての写本についてトランスクリプションすることであるが,これはどれだけ時間を割けるかに掛かっており,できるだけ多くの時間を割き,トランスクリプションを進展させる。今年度中にトランスクリプションを完成させることは時間的には難しいので,2020年度の前半を目標に完成をめざす。 注目すべき点としては、音韻・表記面では初期新高ドイツ語二重母音化および長単母音化がどれくらい首尾一貫してに表記されているか、逆に中高ドイツ語二重母音および長単母音がどれくらい首尾一貫して表記されているかが挙げられる。もし揺らぎがあるのであれば、それは実際の音声と表記の間のギャップを示すものであり、書き手の基層となる方言を特定する手がかりとなりうる。統語面においては、メンテリン聖書と比べ、写本においてどれくらい省略もしくは追加がなされているかが問題となる。写本はどちらかというと省略する傾向にあるが、その理由がどこに求められるかが課題となる。文法的な正しさや理解の容易さによるものなのか、内容的に自明であることが省略されるのか、省略の原理の究明が課題となる。語彙面においては、どれくらい語彙の入れ替えがなされているかが問題となる。語彙は方言に規定される側面が大きいため、語彙の入れ替えはターゲットとなる方言圏を特定する手がかりとなる。 このように言語形式に関して、活版印刷メンテリン聖書とその写本の間の相違を言語学的・ドイツ語史的に特定することを通じて、活版印刷時代に手書き写本を作成することの意味を究明することになるが、純粋に地理的な相違のみではなく、方言か否かの言語形式の選択が往々にして社会的ステータスと結びついているのではないか、という観点から研究をするめることが重要であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
写本のデジタルコピーの入手に時間がかかり,予定の金額より支出が少なくなっているが,2019年度は,デジタルコピーをすべて入手することとしている。備品として予定しているコンピュータも2018年度,購入できなかったため,2019年度に購入する。また,研究文献を調査するための旅費も2019年度は使用する予定である。
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