研究課題/領域番号 |
18K00479
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
Emde Franz 山口大学, 人文学部, 教授 (00209157)
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研究分担者 |
若林 恵 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00293001)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジャンルの混交 / 共感覚 / 文学の絵画性 絵画の詩学 / メディア間の表現 / 作品分析 / テキスチュアリティ / インターメディアリティ |
研究実績の概要 |
2021年度は、講演や研究発表、翻訳作業、論文や書籍の出版、展示会準備など多様なアプローチによって、本研究プロジェクトを展開させた。中心テーマは、絵画と文学の間メディア性に関する研究、特に「詩学、視覚性、感覚の相互作用」、研究対象はスイス出身の画家パウル・クレーと作家ローベルト・ヴァルザーの作品である。 研究協力者の柿沼(Zentrum Paul Klee)は、山口大学人文学部で、ナチスに退廃芸術家との烙印を押された画家クレーにおける国籍の問題と創作への反映を論じた公開講演を行った。本研究活動に基づく研究成果を市民など、社会に還元する有意義な活動であった。 研究協力者の新本(明治大学)は、晩年のR. ヴァルザーと20年にわたって散歩しながら対話を続けた作家、編集者、評論家のカール・ゼーリヒの著作『ローベルト・ヴァルザーとの散策』を翻訳するとともに、本作品を批判的に論じる口頭発表を行い、その成果に基づいて学術論文を執筆した。本作は、長年に渡って精神病院に滞在していたヴァルザーが鋭い文芸批評、文化批判の眼差しを持っていたことを明らかにした、ヴァルザー研究の基礎文献である。 若林(東京学芸大学)は、研究発表において、画家・舞台美術家であった兄カール・ヴァルザーの絵画に関するローベルトのテクストを分析し、さらに、カールが製本・挿絵を担当したローベルト・ヴァルザーの初期散文集『フリッツ・コハーの作文集』における語り手の多層性や越境性、および芸術分野の境界を超えた兄弟のコラボレーションについて論じた。 エムデ(山口大学)はヴァルザー文学における共感覚の描写に着目した研究発表を予定通りイタリアのパレルモ大学開催の国際独文大会(IVG)においてオンラインで行った。別の観点による共感覚や夢の比較研究の試みとして上田秋成の『雨月物語』と夢の諸相の研究を学術論文にまとめ、まもなく出版される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究プロジェクトは国際的なフレームワークによって企画されており、スイスの協力施設や研究者との共同研究が大きな役割を果たしている。プロジェクトメンバーの個々の研究活動は蓄積されつつあり、順調に進んでいるといえる一方で、本プロジェクトにおいて中核をなす国際共同研究活動は、前年度に引き続いて新型コロナウィルスの影響により、計画のさらなる中止・延期を余儀なくされた。しかし12月4/5日は山口大学人文学部でハイブリッド・ワークショップを実施した。研究発表会の内容:松鵜:Max Frischs "Biografie : Ein Spiel"; 新本:Robert Walsers Dichterbild und Poetenleben; 若林:Ein Spiel mit der Autorschaft: Zu Robert Walsers Buch "Fritz Kocher's Aufsaetze"; エムデ:Atmosphaerisches Schreiben bei Robert Walser; 柿沼:Textur bei Paul Klee。 本プロジェクトチームは、引き続き協力施設や研究者と綿密な連絡を取りながら、来年度のシンポジウム等の実現を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
延期された計画は、今後およそ以下のように実施する予定である。(1)日本独文学会でのシンポジウムは「2022年度秋季研究発表会」で実施する。2022年6月にシンポジウムの申請を行い、状況に応じてオンラインもしくはハイブリッド形式で実施する予定である。(2)柿沼は、絵画や演劇に関わる分野でローベルト・ヴァルザーに多大な影響を及ぼした兄カール・ヴァルザーの絵画作品に関する研究および展示プロジェクトに参加し、日本各地での展覧会を開催する企画を進めている。(3)エムデは2022年7月開催予定の国際比較文学協会(ICLA)の大会でローベルト・ヴァルザーにおける共感覚と夢の関わりについて研究発表を行う予定である。大会はグルジアのトブリシ大学で行われる。(4)スイス、ドイツでの、ローベルト・ヴァルザーやパウル・クレーに関連する新たな資料の収集も継続して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度、延期を余儀なくされた日本独文学会でのシンポジウム、関係大学(明治大学、山口大学など)での講演会やラウンド・テーブル・ディスカッションの催しについては、今年度の実施を予定しており、そこで旅費・滞在費等を使用することになる。 引き続き、コロナ感染状況、入国条件の緩和状況を見極めたうえで対応する。日本独文学会でのシンポジウム(2022年秋)の際には、ヴァルザー研究の第一人者であり翻訳研究専門家でもあるペーター・ウッツ氏(ローザンヌ大学名誉教授)、そしてスイスのベルン市に所在するローベルト・ヴァルザー・センターの館長レート・ゾルク氏を迎える予定である。現在、両氏と日程調整しながら、シンポジウム、講演会を実施する準備を進めている。 さらに、作家ヴァルザーの兄カール・ヴァルザーの展覧会開催 (東京および大阪)の計画も進行中である。状況が許す限り、ヴァルザー資料収集のためにスイスやドイツへの研究旅行を行うことも計画している。
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備考 |
本プロジェクトのウェブサイト:http://moderne-20.swisslit.org/archives/category/sitzung-ja 2021年度中は、研究メンバーが相互に綿密に連絡を取り合って、綿密に連絡を取り、数回に渡り遠隔会議を行い(5月5日、9月25日、2月13日、3月9日)、山口大学でハイブリット研究会(12月4/5日)をおこなった。
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