研究課題/領域番号 |
18K00479
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
Emde Franz 山口大学, 人文学部, 名誉教授 (00209157)
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研究分担者 |
若林 恵 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00293001)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | synaesthesia / painting / hybrid genre / 絵画の詩学 / 文学の絵画性 / テキスチュアリティ / 共感覚 / ジャンルの混交 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトの一環として日本独文学会秋季大会(2022年10月8日・9日)にて「絵画、テクスト、テクスチャー:パウル・クレーとローベルト・ヴァルザーをメディア横断的に読み解く」をテーマとしてドイツ語によるオンライン国際シンポジウムを実施した。発表者は、スイス在住の研究協力者2名、ベルンの「ローベルト・ヴァルザー・センター」館長レート・ゾルクと「パウル・クレー・センター」の柿沼万里江がベルン市とチューリヒ市から参加し、日本からは山口大学のエムデ、東京学芸大学の若林恵、および研究協力者の明治大学の新本史斉が参加した。 シンポジウム以外の作業についても、本プロジェクトは、オンライン遠隔会議によって綿密に連絡をとりながら、上記のメンバーが精力的に個々の研究を促進し、研究論文を刊行していく形で準備を進めることで、全体的に成果を出すことができた。 パウル・クレー・センター研究員の柿沼は、若林の招聘により、学習院大学や東京学芸大学で開催されたオンラインや対面の公開講演会を行い、クレーの晩年の創作の芸術的・政治的意義やメディア横断的創造について論じた。同時に本プロジェクトの次の段階の準備として専門の研究者や各地の美術館関係者と打ち合わせを行った。新本はローベルト・ヴァルザーの作品におけるジャンルの混淆について、英詩分野に関わる研究雑誌に研究論文を執筆した。エムデは2022年6月24日-29日、グルジアのトビリシで開催された国際比較文学大会(ICLA)で研究成果を発表した。その後、エムデは引き続きドイツとスイスにて情報収集と打ち合わせを行い、ベルリン自由大学の附属図書館やベルンのパウル・クレー研究センターの資料館で資料収集を行った。 年度全体を通して、本プロジェクト推進のため、スイスと日本のメンバーとの間では、定期的にオンラインによるミーティングを継続して行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
元来はスイスの研究協力者3名を日本に招聘し、各地で講演やシンポジウムを開催する予定であったため、前年度から準備に入り、入国など諸手続きの書類作成に努めたが、新型コロナ感染防止対策に伴う水際対策により、一定期間の隔離の設定など様々な障害が予想され、対面による実施は極めて困難との結論に至った。これにより計画の遅れが生じ、プロジェクトの延長が必要となった。 参加を予定していた日本独文学会秋季大会も完全なオンライン開催となり、本シンポジウムの開催形態もそれに対応するものとなった。日本独文学会の担当者の協力も得て、ヨーロッパとの時差などに配慮してもらい、結果として有意義な国際シンポジウムを実施することができた。聴衆や参加者はおおよそ35人で、ディスカッションもスイス在住の研究者数名が加わり、非常に活発なものとなり、学会参加者からは好意的な評価が得られている。シンポジウム発表者5名は口頭発表を研究論文に仕上げ、2023年度に学会叢書としてオンライン出版すべく作業を進めている。 エムデの海外出張についても、新型コロナ感染状況によりもろもろの手続きに通常よりも時間がかかり、発表そのものは計画通りに進んだが、論文を掲載する雑誌の発行は2023年度中となる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、これまでの共同研究の集大成として、シンポジウムでの発表と議論に基づいたオンライン研究叢書の刊行を予定している。 また、研究代表者エムデのICLAでの発表も当該年度に刊行予定である。 加えて、本プロジェクトの延長上に想定されうる新たな研究計画について議論すべく、オンラインによる定期ミーティングも継続して行っていく。 具体的には、次段階においては文化的、社会的背景の分析にまで射程を広げる計画である。作家ローベルト・ヴァルザーの実兄で画家・挿絵画家・舞台美術家のカール・ヴァルザー(1877-1943)や当時の文化産業を視野に入れることを考えている。兄カールは1908年に作家ベルンハルト・ケラーマン(1879-1951)と共に日本を訪れ、各地で絵画やスケッチを作成し、のちにケラーマンは日本紀行の成果として書籍2冊(「日本での散歩」(1910年、カッシーラ出版)と「さっさよやっさ」(1911、モンズ出版)を刊行した。ケラーマンは当時のベストセラー作家で『トンネル』というサイエンス・フィクション小説は100万部が売れ、繰り返し映画化もされている(1915年、1933年、1935年)。当時の売れっ子の文化人2名が出版社によって派遣され、そのコラボレーションによって同時代の日本の事情をヨーロッパに伝えることになった経緯は、文化交流的観点からも非常に興味深いものである。今後の研究の一つの可能性として、この事例にも基づきつつ、当時のヨーロッパにおける日本への関心の高さ、オリエンタリズム的事業の経済効果などと、芸術創造の生産的関係を分析することも視野に入れている。その一環として、現在、日本国内での「カール・ヴァルザー展」の企画が進行中である。パウル・クレー・センター研究員の柿沼は、すでに日本各地の美術館関係者および文化交流研究者との連携体制を整えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当年度の計画の一環としてスイスから研究協力者の招聘事業が中止になり予算の執行に変更が生じた。研究活動において遠隔リモート会議やシンポジウムを実施した。急遽予算の執行について議論した結果、現在、ローベルと・ヴァルザー全集の出版に注目した。将来の研究に必要になることを予測し、一部を購入することに決めた。海外の出版社であり、上達に時間がかかり、予算に残額が生じた。 引き続き全集の書籍と物品に充てる予定である。
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備考 |
2022年度中は、研究メンバーが相互に綿密に連絡を取り合って、数回に渡り遠隔会議を行った:6月18日、8月20日、8月27日、9月3日、11月6日。東京の日本独文学会春季学会で対面研究会:5月8日、山 口大学で対面研究会:2023年1月21日。
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