映画史的にみて非常に高い水準にあった占領期のフランス映画について、この繁栄がもたらされたのが戦時下という表現規制がことさら強い状況下であった点に着目し、検閲規制を逃れる有力な手段といわれてきた文芸映画を中心に作品の分析を行った。その結果、いくつかのケースについては、表現規制への対応が単なる「検閲逃れ」以上の側面を持ち、物語のレベルでは検閲主体の保守的イデオロギーから巧みに距離をとりつつも、表現レベルでそれを相対化する視点が導入されていることも確認できた。今後、さらなる検証が必要であるが、社会的な表現の抑圧が映画表現の質の向上につながったとする仮説の妥当性が立証されたと考えられる。
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