研究課題/領域番号 |
18K00599
|
研究機関 | 神戸松蔭女子学院大学 |
研究代表者 |
西垣内 泰介 神戸松蔭女子学院大学, 文学部, 教授 (40164545)
|
研究分担者 |
郡司 隆男 神戸松蔭女子学院大学, 文学部, 教授 (10158892)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 視点現象 / 再帰代名詞 / 視点投射 / モダリティ / 自由間接話法 |
研究実績の概要 |
従来 意味や言語使用の観点からのみ考察されてきた「視点」にかかわる様々な表現およびそれらを含む構文について,論言語学の観点からその性質を言語の統語構造との関係で明らかにし,日本語および複数の言語でかなり共通した性質が見られることを示していくことがこの研究の目的である。「証拠性」を含む 「意識」(awareness) やエンパシー (「共感」empathy) など,意味的な概念が日本語および世界の多様な言語の統語構造の中にエンコードされると考える研究の理論的・経験的可能性を示し,関連する言語現象には一致 (Agreement) や移動操作およびそれらに対する制約など統語理論で用いられてきた概念が積極的に関与することを示すことを目的に,研究を進めてきている。またこのような統語論の分析と平行するかたちで,関与する言語現象について形式化された意味論の分析を行ってきている。 2020年度は,チェコ共和国で行われる Olinco (Olomouc Linguistics Colloquium) で英語の「理由」に関わる構文に見られる視点現象について発表が決定しており,発表を行う予定だったが,コロナ禍の影響で大会が延期となり,発表することができなかった。 日本言語学会機関誌『言語研究』157 に「「潜伏疑問」の構造と派生」が掲載された。これは2016年に『言語研究』151 に掲載された「「指定文」および関連する構文の構造と派生」で提案した分析の枠組みを「潜伏疑問」の分析に拡大したものである。 「指定文」については上記「「指定文」および関連する構文の構造と派生」以降に気づいたいくつかのこの構文の特性と本質についての考察および分析が大幅に進展した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チェコ共和国で行われる Olinco (Olomouc Linguistics Colloquium) で英語の「理由」に関わる構文に見られる視点現象について発表が決定しており,発表を行う予定だったが,コロナ禍の影響で大会が延期となり,発表することができなかった。この論文では Charnavelle (2019, NLLT) で扱われている because を含む理由構文だけではなく,the cause を主要部に持つ指定文にも観察を広げ,単一の演算子の存在を仮定する Charnavelle (2019, NLLT) の分析では捉えられない現象を,証拠性,評価,ダイクシスなどに関わる複数の視点投射を仮定し,それぞれの指定部に現れる代名詞要素のコントローラが選択的に存在することで説明するという分析を提案している。従来の研究ではモダリティの視点保持者は話者に限定されるというものであったが,Charnavelle の分析では文中の登場人物が視点保持者の解釈を得ることが可能である現象が指摘されているが,本分析ではモダリティの視点保持者は「自由間接話法」(free indirect speech) の視点保持者を決定するメカニズムと同一のものによって決定できる可能性を示している。これは複数の種類を持つ視点保持者を選択的に決定する理論的枠組みの優位性を示すものであると考えられる。また,この考察は,日本語の再帰表現「自分」の長距離束縛に関連するのと本質的に同一のメカニズムが英語の再帰表現 himself, herself などの長距離束縛(と見える)現象にも有効であることを示すものである。 このように,本年度の研究ではモダリティの視点保持者についての研究が進展し,さらに「自由間接話法」との関連性についても同一のメカニズムで分析が可能である見通しができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は「進捗状況」の中で記述した視点保持者の解釈の決定のメカニズムを,複数の視点投射を仮定し,それぞれの指定部に現れる代名詞要素のコントローラが選択的に存在するという分析方法をさらに追求してより幅広い言語現象の分析を行うことが研究を推進させる上での大きなテーマである。とりわけ,2020年度の研究の中で,これまでの研究であまり確かな考察ができていないモダリティの視点保持者についての考察の見通しがついたので,これをさらに進展させる研究と考察を行うつもりである。さらに,これまでの研究では視野に入っていなかった「自由間接話法」における視点保持者の分析を進展させることで,研究対象のはばが大きく広がることが期待できる。 また,「指定文」について「「指定文」および関連する構文の構造と派生」以降に気づいたいくつかのこの構文の特性と本質についての考察および分析が2020年度の研究で大幅に進展したが,特に指定文と「意味タイプ」の関連という,従来の研究ではまったく気づかれていなかった問題が浮上してきており,これを形式意味論の洞察を取り入れるかたちでさらに発展させたい。また,「指定文」については,日本語における研究の中ではこの構文の本質的な考察がこれまで行われていないと思われる。おもに英語で考察されている「指定文」の本質的性質にもとづいて,日本語の「指定文」の性質の体系的な考察を進めていく方針である。 また2019年に発表した「「地図をたよりに」の構造と派生」(『日本語文法』19-1)の分析をさらに発展させ,関与する構文が統語論の考察のみでは説明できない問題,特に「時」の解釈との関連で重要な知見が得られる見通しがあるので,この点をさらに追求して研究を進める方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度はチェコ共和国で行われるOlinco (Olomouc Linguistics Colloquium) で発表が決定しており研究出張を予定していたが,コロナウィルスの世界的感染拡大のため,同学会が延期となり,計上していた予算を執行することができなかった。2021年度に予定されている国内外の学会もオンライン開催のものが大部分であり,旅費を執行することができない状況にある。
|