高校修了生にあたる大学生新入生160名を対象にした前回の実験項目(英文法12項目、冠詞、名詞の複数形、前置詞の位置、動詞の過去形、代名詞の格、助動詞、三単現、動詞の下位範疇化、wh疑問文、Yes/No疑問文、語順、進行形)に、さらに自動詞と他動詞、主題と主語、関係代名詞など新しい項目を加えたりし、13種類31項目、合計で62問を出題した。また、実験参加者も236名に増やし実験(文法性判断+修正タスク)を行った。結果として、同じ文法項目に属する要素であっても使用される文脈によって困難度が異なることがあること(例:「規則過去形-edの脱落した誤り」よりも「不規則過去形が規則過去形になった誤り」の方が正答率がかなり低い)、さらに、記憶力と密に関連する項目は、語句ごとに誤りの割合が変わる可能性があること(例:同じ「名詞の複数形」という文法項目でも、名詞の種類によって困難度に差が生じる。*two mousesは*two houseよりもはるかに正答率が低い )、さらに,母語の影響の可能性(例:冠詞など)が明らかとなった(白畑・横田 2023)。 本研究の結果から、英語の授業の中で、詳しい文法説明を受けただけでは習得が難しい項目もあれば、簡単な英会話表現の練習だけでは身につかない項目もあることが示唆される。理論的には、動詞に関わる素性獲得、一致に関わる操作、移動・削除の操作、音声上の操作、形式の記憶、介在語句の有無、一度に複数の要因が絡む操作、母語の転移などを考慮に入れる必要がある。以上のように、文法習得には従来の学校文法項目による分類では分けられない難易度が潜んでいることから、文法の分類方法及び指導法を「習得」の観点から整理し直す必要性が示唆される。
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