研究課題/領域番号 |
18K01022
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平松 英人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50755478)
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研究分担者 |
猪刈 由紀 清泉女子大学, 文学部, 非常勤講師 (10773583)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会福祉史 / キリスト教社会史 / 市民社会史 / ドイツ史 / 地域研究 / 敬虔派 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、前年度におこなった概念史による分析手法の方法論的検討によって得られた知見を、本研究プロジェクトの基本概念である「福祉Wohlfahrt」「福祉国家Wohlfahrtsstaat」「社会国家Sozialstaat」の分析に適用し、検討することから、今年度の研究に着手した。ドイツ語圏においては、WohlfahrtやWohlfahrtsstaatという概念には、19世紀以来の国家中心的な概念理解の歴史的伝統を踏まえて、今なお否定的な含意が見られる。しかし、Wohlfahrtspflege やWohltaetigkeitという関連概念には、個人主義的自由主義的な流れを汲む側面も存在する。このような事実は、宗教的動機が市民の自発的な社会的参加に与えた影響を解明する上でも、重要な知見であることが確認できた。 研究分担者は、主に敬虔派が集った宗教団体であるドイツ・キリスト教協会について、前年度に実施したバーゼル大学文書館所蔵の未刊行史料の調査結果をもとに分析をすすめた。同協会については、協会の議事録、会報、書簡などを抜粋して編集し刊行した史料集があるが、未刊行の史料の状況と、それがカバーする範囲について現地で感触を得たうえで、さらなる史料分析をおこない、史料の読み方やそれにもとづく自らの見立て、組織や個人の性格についての見解の確かさを確認し、考察を深めることができた。前年度末には、この協会に関連する他の敬虔派団体や個人について希少本の複写もできたため、それらにももとづきながら、18世紀後半の市民社会における敬虔派の自他理解についても検討を加えた。その結果、神聖ローマ帝国内での、啓蒙期の宗派にかんする二つの相反する政策事例を背景に、ドイツ・キリスト教協会が一貫して取った宗派協調的姿勢を明らかにするとともに、活動軸の設定に関する協会内部での差異も明確化することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、前年度に実施した方法論と研究テーマ全体に関わる先行研究の検討で得られた知見にもとづき、現地調査で収集した文献・史資料検討と分析を進めた。研究成果としてまとまった一部を公表し、さらなる議論の深化を図るため、研究代表者および分担者はそれぞれ二度の報告機会を持った。研究代表者は、第76回社会福祉形成史研究会(科研費基盤研究(B)「戦前社会事業の到達点と現在への視座-福祉国家の源流をたどる」)および国際シンポジウム(主催:東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター「ベルリンの壁崩壊30年-変わりゆくドイツの現在」)において、研究分担者は、アルプス史研究会(2020年4月より科研費基盤研究(B)「中近世アルプス地域の空間的・社会的モビリティー」)および第70回キリスト教史学会大会において、発表の機会を持った。今年度研究計画の進捗はおおむね順調であったが、2020年に入って以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により計画の変更を迫られ、2月から3月にかけて予定していた現地での調査を断念せざるを得なかった。そこで、今年度末は、年度内におこなった発表を文章化し公表することに注力することとし、それぞれが年度末までに原稿の執筆にあたった。それらは「福祉国家と市民的社会参加-19世紀市民社会論の視点から」(東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター編『ヨーロッパ研究』第20号)、「長い19世紀におけるドイツ市民社会の歴史的展開-市民層・協会・地方自治」(石田勇治・川喜田敦子・辻英史・平松英人編『市民社会の史的展開-現代ドイツへの視座 歴史学的アプローチ第3巻』)(以上研究代表者)、および「ドイツ・キリスト協会と二つの寛容―オーストリア寛容令(1781)とプロイセン宗教令(1788)を例に」(『キリスト教史学』第74号)(以上研究分担者)として2020年度に刊行予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は新型コロナウイルス感染症拡大のため海外での資料調査を断念せざるを得なかった。2020年度は前年度に予定していた現地での資料調査を実施する予定であるが、新型感染症の終息如何によっては、年度中の海外渡航を再び断念しなければならない状況も想定される。状況を見極めながら、すでに手元にある史資料に基づいた分析を進める一方で、刊行資料集や文献資料などをより幅広く猟歩し、一次資料の不足を補えるような研究計画の変更も念頭に研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は2月から3月にかけて研究代表者および分担者ともに予定していた海外での資料調査が、新型コロナウイルス感染症拡大のため、実施することができなかった。そのために確保していた予算を、2020年度に実施予定の渡航調査のための旅費として計上する。
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