新型コロナ感染拡大に伴い、当初の予定通りには現地調査がかなわなかったが、それに代わり、この10年間で進んだ東ティモールに関する人類学、歴史研究を渉猟し、主権回復(独立)後の東ティモールの社会変容を整理する作業を進めた。その結果、東ティモール高地社会に貨幣経済が浸透したことが比較的近年(1980年代以降)であること、贈与交換経済の負担が、独立後の文化復興の影響で高まったことなど、現地調査で明らかにしたことが、他の研究によっても裏付けられた。伝統経済から市場経済への移行という近代的合理性がどの社会でも見られる一方で、東ティモール高地社会の場合、貨幣経済の浸透が遅かったことと、インドネシア時代に儀礼のような多くの人々が集まるような大規模な伝統行事が禁止されていたことによって、独立後に急速な市場経済化と伝統経済の復興が同時に起こるという特殊な状況が生まれることになった。 上記の研究成果は国際会議で口頭発表を行ったほか(2020年9月)、論文としてまとめ2023年度中に公開する予定である。 最終年度である2022年度には、東ティモール民主共和国の主権回復(独立)20年という節目にあたり、上智大学に特別シンポジウムを開催した(「東ティモール民主共和国20周年特別シンポジウム:2002年の「主権回復」を問い直す」特別シンポジウムを開催し(2022年5月)、その成果をプロシーディングスとして編集し刊行した(2023年3月)。またしばらくコロナで延期になっていた東ティモールにおける現地調査を3月に実施した。 現在、東ティモールに関する論集の企画編集を行なっており、2024年4月の刊行を目指し準備を進めている。
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