研究課題/領域番号 |
18K01213
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松尾 陽 名古屋大学, 法政国際教育協力研究センター, 教授 (80551481)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 環境犯罪学 / 割れ窓理論 / 状況的犯罪予防論 / 犯罪に強い社会の実現 / ガバナンス / AI / 自由 / 権力 |
研究実績の概要 |
今年度の主要な業績としては、2018年度に報告した内容が、単行本の中で収録される形で公表された論文がある(松尾陽「犯罪予防における環境的アプローチの意義――犯罪予防の法哲学に向けて」小山剛・新井誠・横大道聡編『日常のなかの〈自由と安全〉:生活安全をめぐる法・政策・実務』(弘文堂、2020年7月15日)78頁から89頁)。 本論文は、そのタイトルが示すように、「犯罪への共同体再生型環境的アプローチの可能性と限界」を探るという研究課題の、まさに中核の論文となる。日本の政策で依拠されている環境的アプローチには、二つのルーツがあり、それぞれの違いを示し、一方で、個別犯罪対策型、他方で、共同体再生型があることを示した。後者の内実を深く考察することがまさに本研究課題の目指すところである。その意味で、本論文は、類似するアプローチとの異同を示すことによって、本研究課題の輪郭を浮き彫りにする作業となった。 本研究課題に関連する今年度の業績としては、松尾陽「AI時代における権力と自由のガバナンス」宇佐美誠編著『AIで変わる法と社会――近未来を深く考えるために』(岩波書店、2020年9月17日)63-85頁という論文がある。 本論文は、AIシステムのリスクを素材としつつ、ガバナンス論を論じたものであり、その過程で、暴力・お金・情報という対象の性質を踏まえて三つのガバナンスに分類した。犯罪予防の文脈でも、AIの利用が注目されつつあり、また、犯罪予防を実施していくうえでも、ガバナンスの問題をきわめて重要になる。ガバナンス論自体は、本研究課題を研究する中で広がっていたテーマであり、研究課題の発展を論文の形で公表することができた。 海外渡航などができない分、論文執筆に集中する年になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文の執筆としては、当初予定していた本研究課題の中核に位置する論文を公表できたことに加えて、本研究課題から発展して出てきたテーマの論文を公表することができた。その意味では、当初の計画以上の進捗を示しているといえる。 もっとも、新型コロナ禍の状況で、海外渡航の側面で十分活動できたとは言い難い。ただ、たとえば、イタリアのカリアリ大学のジュゼッペ・ロリーニ先生との知遇を得ることができ、彼と論文を交換し、メールで意見交換も行い、オンラインの形ではあるものの、研究交流ができた。 ロリーニ先生と知遇を得たのは、偶然の産物であるが、しかし、本研究課題を遂行する上で、重要な哲学的考察を示した論文を公表しており、当初イギリスの研究者との交流を深める予定であったが、しかし、ロリーニ先生との意見交換を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
犯罪予防を実施していく上では、ガバナンスのあり方がきわめて重要になることがわかってきた。そこで、このテーマを深堀していきたい。そして、ガバナンスのアクターとして注目すべきは、専門家の役割と責任である。 今年度の前半には、このテーマでの論文が公表される予定である。また、AIシステムのリスクのガバナンスに関しての論文も執筆する予定である(協力研究の側面があるので、今年度中に公表されるかはわからない)。 本研究課題の遂行に海外交流があった。渡航は難しいものの、オンライン上で意見交換を行っていきたい。
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