本研究課題は、建築的・情報技術的な環境を変化させることによって人びとの行動を誘導しようとする環境的アプローチ、とりわけ、コミュニティの形成に影響を与える環境的アプローチに焦点をあてるものである(法規制との比較も視野に入れた多様な規制手法論がその背景にある)。具体的には、日本の「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を、英米の犯罪予防論と比較しながら、分析することを出発点とし、この点については早期に研究論文を執筆し、2020年7月公刊の書籍に収録された。 研究課題の遂行に影響を与える社会変化が生じた。一つはコロナである。もう一つはAI技術の発展である。コロナ禍については、一方で、研究中期に計画していた海外渡航が難しくなった(代わりに、理論的な分析についての意見交換を海外の研究者とオンライン上で行うことができた)。他方で、日本におけるコロナ禍の規制手法それ自体が、本研究課題に大きく関わるため、こちらの研究・分析も実施し、複数の論文を公刊することができた(3本、近刊予定1本)。 AI技術やその倫理的意義の議論の発展も目まぐるしく、犯罪予防における利用は既に始まっている。それゆえ、本研究課題と大きく関わり、AI技術の制御のあり方の研究にも着手した。AIガバナンスのあり方や監視のあり方について、いくつかの論文を公刊することができた(AIガバナンス2本、監視関係2本)。研究機関の最後の方では、EUのAI規制法案が出され、その分析を行っていた。この点についての研究成果はこれから公刊していきたい 最後に、本研究課題の背後にあるのは、規制手法の多様化の問題である。この、より一般的な課題についても考察を深めることができ、この点に関する論文を公刊することができた(1本)。 海外渡航が難しくなったものの、論文公刊数を指標にすると、当初の予定より多くの成果を挙げることができた。
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