研究課題/領域番号 |
18K01246
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安田 理恵 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院(法), 特任講師 (60742418)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 行政法 / 自主法 / 専門知 / 法概念 / 非国家法 / 非国家法としての「行政法」 |
研究実績の概要 |
本研究は、「私的主体の有する『専門知』や『暗黙知』が、法概念のなかに盛り込まれていく」という法現象について、この法現象が、特に、国家法である行政法上の法概念との関係のなかでいかなる法構造を有しているかを明らかにするものである。 初年度および2年目に行った研究は、以下のとおりである。①私的主体が遂行する公共的業務(特に資材調達)について、国家法による規律が有する限界を明らかにしたうえで、当該公共的業務のうち、専門知を要する調達とは何か、その調達を規律するルールは私的主体が定立し適用していることの調査を行った。②行政法上の法概念について、これを市場経済国(大陸法系・英米法系)と市場経済移行国(社会主義法系)との間で、特に「文脈(context)」に留意した比較を行った。具体的には、それぞれの国で鍵となる法概念を抽出し(行政行為、行政契約等)、その形式的定義とは別に、実際に有する意味内容を明らかにし、各国の法律家が暗黙裡にえがく具体例のなからか典型例を抽出し、なぜそれが典型例となるのかを分析した。③アメリカ合衆国において、私的主体が定立した法(=非国家法。以下「自主法」という。)の法源性を、特に医療の専門職集団に焦点をあて調査を行った(一年目のみ)。 3年目にあたる2020年度(令和2年度)は、以下の研究を行った。①私的主体が遂行する公共的業務について、私的主体が有する専門知に基づいて定立された方針及び自主法の運用を、特に、私的主体の外部に及ぼす「法」効果に焦点をあてて調査を行った。②前項の調査結果に、国家が定立した政策及び行政法の運用を対置させ、その外部効果について比較検討を行った。③国家法が機能しないところでもなお、専門知に基づいて定立された方針及び自主法が、公正なものとして機能するための前提及びその条件を明らかにする作業を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題①「私的主体が遂行する公共的業務について、私的主体が有する専門知に基づいて定立された方針及び自主法の運用を、特に、私的主体の外部に及ぼす「法」効果に焦点をあてて調査する」および課題②「前項の調査結果に、国家が定立した政策及び行政法の運用を対置させ、その外部効果について比較検討する」については、日本の新型コロナウイルス感染症対策である持続化給付金の給付にかかる公共調達を素材として、調査研究を行い、国際学会(オンライン参加)で報告を行い、各国の参加者との議論を行った。また、た、課題③「国家法が機能しないところでもなお、専門知に基づいて定立された方針及び自主法が、公正なものとして機能するための前提及びその条件を明らかにする」についても、日本法を対象として、医療および公衆衛生の専門知を要する新型コロナウイルス感染症対策にかかる諸措置について、国の法令、地方公共団体の条例だけでなくそれらの内部法、また事実上のルールにも焦点を当て、国と地方の権限と責務、医療・公衆衛生の専門知の活用法、国民住民と患者の権利利益に関する調査分析を行い論文を公表した。これらの点では、進捗状況は順調であったといえる。 ただし、前年度に引き続き、「アメリカ合衆国に渡航し、当地の『私的主体である医療専門職集団が定立した自主法』(特に、アメリカ発祥の(現在では世界中で活動を行っている)医療機能第三者評価機関“the Joint Commission”が定立したルール)を、特に当該集団外部に及ぼす「法」効果に焦点をあて、自主法の定立及び運用状況の調査を行うこと」は、海外渡航であるという点で実施できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度である2021年度は、「国家法が機能しないところでもなお、専門知に基づいて定立された方針及び自主法が、公正なものとして機能するための前提及びその条件を明らかにし」、もって本研究の研究課題、「医療の専門家の有する『専門知』や『暗黙知』が、法概念のなかに盛り込まれていく」という新しい法現象について、国家法である行政法上の法概念との関係のなかでの法構造の解明を行う。 研究対象とする国々及び専門知を有する私的主体の変更は行わない。研究対象国としては、従前どおり、市場経済国(大陸法系・英米法系)としてアメリカ合衆国及び日本、市場経済移行国(社会主義法系)としてロシアその他の市場経済移行国である。研究対象としての「専門知を有する私的主体」は、これも従前どおり、その私的主体内部の人員・資材調達については各国の公共事業体、及び、アメリカ発祥の(現在では世界中で活動を行っている)医療機能第三者評価機関"the Joint Commission"とし、私的主体の外部に及ぼす「法」効果については、主として後者のthe Joint Commissionとする。ただし、今般の新型コロナウイルス感染症の感染状況によっては、調査手法を海外渡航からオンラインによる調査へと変更し、本研究の研究目的を達成することとする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度中のアメリカ合衆国における現地調査の可能性を探っていたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、渡航できない状態が続いたこと、また、家族が看病を要する状況となり研究時間を計画通りには捻出できなかったことによる。 2021年度は、新型コロナウイルス感染症の感染状況によるが、今後、渡航可能であれば現地調査を行う。他方で、渡航がで着ないことをあらかじめ考慮して、研究目的および研究対象は変更せず、調査手法を変更することにより、研究目的の達成を目指す。
|