本研究は、「私的主体の有する専門知・暗黙知が法概念の中に盛り込まれていく」という法現象について、この法現象が特に国家法である行政法上の法概念との関係のなかでいかなる法構造を有しているかを明らかにしようとするものであった。特に、今年度は、新型コロナウイルス感染症のまん延を素材として、その対策に関する行政の決定における専門知・暗黙知の法概念への取り込みを分析した。この分析の結果、私的主体だけでなく公的主体が有する専門知・暗黙知も考察に含むべきこと、公的主体を国と地方とに分けて考察すべきこと、法概念に盛り込まれる専門知の種類はさらに細目に分けることができること、専門知・暗黙知が盛り込まれる法構造が明らかになった。 さらには、現行の法構造だけでなく、その法構造のどのような仕組みが医療の専門知・暗黙知の行政決定への取り込みを阻害しているのか、その法構造が国民・住民、新型コロナウイス感染症患者の権利利益をどのように保護し又は毀損しているか、の分析を行った。 また、公共的業務の遂行主体としての公的主体と私的主体とは、これらの主体がその公共的業務遂行に必要な資材調達(公共調達)を行う際に違法行為を犯した場合の法的責任に関してどのような差異があるのかに関する検討も行った。 上記の研究から、今後の課題が明らかとなった。すなわち、行政法の規制が及ばない領域(例えば、民間の専門職集団が専門知に基づいて行った決定)、あるいは、民間の自主法が行政規制に反映されない領域(例えば、行政の決定としてなされる医療上の専門的決定)に対して、どのようにすればそこに、民主的正統性と専門性とを担保することができるか、という課題である。
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