本研究は、被告人の虚偽弁解行為や自白的言動、暴力団における被告人と実行行為者の上下関係といった間接事実を決め手に、被告人の犯人性を認定する手法は、多角的な証拠群を欠き、かつ実証性を欠く素朴な「経験則」に依存するという二重の意味で、証拠上の脆弱性を持つことを明らかにした。また、コミュニケーション能力に乏しい者による自白や供述内容が変遷している自白であるにもかかわらず、他の間接事実と矛盾しないとしてその信用性を肯定したり、あるいは間接事実との総合評価によって被告人の犯人性を認定したりする手法は、「人は自分に不利益な嘘はつかない」という素朴な「経験則」に依存するものであることを明らかにした。
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