本研究は、画像の撮影・拡散によるプライバシー侵害等に対する刑事規制の現状と課題を具体的に明らかにしたうえで、これに対する刑事規制のあるべき姿を立法提案も視野に入れて探究しようとするものである。その際には、ドイツの刑法を比較研究の対象とする。ドイツ刑法には、画像の撮影・拡散によるプライバシー侵害等を処罰する201条aがあり、その参照価値は極めて高いと考えられるからである。 2020年度は、研究実施計画に従い、これまでの準備的な作業をふまえ、日独の立法状況のさらなる調査を行った。日本については、各都道府県の条例を改めて調査し、この間の改正状況を含め、現状を確認した。ドイツについては、近時、性犯罪や盗撮についての立法の動きが盛んであり、それを可能なかぎりフォローした。特筆すべきは、これまで刑法上の犯罪とされていなかった公共の場でのスカート内等の盗撮行為が、2020年の刑法改正で犯罪化されたことである(184条k)。この盗撮罪は、性的自己決定権をも侵害する罪とされており、住居等の私的空間内の姿態の盗撮を処罰する201条aとの関係を含め、詳しく調査する必要がある。そこで、さっそくこれに着手したが、いまだ文献が少ないこともあり、なお途上にある。 このようにドイツで2020年に重要な改正があり、その調査が道半ばであることから、当初予定していた、刑事規制のあるべき姿を立法提案も視野に入れつつ明らかにする作業は完成には至らなかったが、2020年のドイツ刑法改正を201条aとあわせて調査、検討することにより、日本の刑事規制のあり方を考える上で有益な、新たな知見が得られるのではないかという結論に至った。 今後も調査を続け、できるだけ早い時期に、調査と検討の成果を論文にまとめ、公表したいと考えている。
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