過年度に引き続き、文献調査と研究成果としての論文執筆に従事した。主たる研究対象は、食料・農業・農村基本法改正の提議と改正概要の作成に至る過程であり、その精査の結果、従来の官邸や規制改革(推進)会議の主導によるものではなく、かつての農林関係議員主導によるものであることを発見した。政策の主導者の相違に対応して改正概要のポイントも変化し、官邸等主導農政における農業の成長産業化とその担い手としての企業モデルの導入の強調から、今回の改正概要では従来用いられてきた「発展」が再び取り上げられ、経済成長以外の特長への注意喚起と農業の担い手の多様性の強調、家族型農業への配慮が盛り込まれた。改正の背景には、ロシア・ウクライナ戦争に伴って意識されるようになった食料安全保障問題や、従来より指摘されてきた世界規模での地球環境問題への懸念が深まり、G7議長国を務めるタイミングで日本が主導的な役割を果たす意味でこの改正問題が取り上げられたことが判明した。農業の持続可能性の確保とともに、成立が見込まれる改正法の下でのこれらの対策の具体化とその政治過程の分析の必要性を確認した。これらの点についてはそのポイントを論文にまとめた。この他、官邸等主導農政のフォローアップとして、農業の効率化のための大規模経営やIT機器・技術の活用等の先進事例を調査してその成果を確認した一方、問題点として、当然想定されるコストの問題のほか、大規模経営のモデルとされたオランダ生乳業でのCO2排出問題、IT機器・技術の活用により取得されたデータの標準化や所有権の問題の存在が明らかになった。これらについてはその政治的意味についてなお分析が必要でまだ成果発表に至っていないが、今後の成果発表を計画している。
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