本研究課題は、2014年のユーロマイダン革命以前の政治体制がどのように変容したのかを考察するものであった。本研究応募時には予測しなかった新型感染症の拡大と、2022年にはロシア・ウクライナ戦争が勃発し、本研究課題はフィールドワークを行うことなく推進することを余儀なくされた。 それでも、本最終年度には独立後ウクライナの政治の変遷を概観し、ロシア・ウクライナ戦争下の戦時体制の形成を考察した論文を執筆し、集大成的な成果とすることができた。要点を簡単に述べると、独立後一貫して中央政府が脆弱であり、地方政府が強靭であったことがウクライナ政治を特徴づける。その中で地方閥が中央レヴェルで競合する「求心的多頭競合体制」が2014年までの体制だったとすると、ユーロマイダン革命と2019年のゼレンシキー政権の誕生によって、地方に足場を持たないポピュリスト的な指導者を抱える中央政府と地方では市長らが自己の政党を率いて中央に対抗する「中央・地方遊離型ポピュリスト体制」へと変容した。ロシア・ウクライナ戦争下に直面して、中央政府はこのローカル・エリートを戦時体制に組み込んだ。これは防衛局面では一定の成果を上げたが、中央政府の統合機能の弱さは克服されていない。 こうしたウクライナ政治を考察するうえで、比較対象になるのはロシア政治であるが、ロシア政治に関して、ロシアの戦時体制を考察した論文一つと、ロシアの権威主義化を国際的な影響力の観点から考察した論文を一つ、またロシアの議会に関する解説を一つ執筆した。さらに、ロシアの個人支配体制の成立に関して、英国のスラブ・東欧学会で報告した。
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