本研究では、その理論的基盤を構成する安全保障化理論と統治性理論に関して研究を進めてきた。安全保障化理論は、ブザンやヴェーヴァなどのコペンハーゲン学派といわれる研究者によって構築されてきた議論であり、それまで安全保障の領域であると認識されてこなかった問題が、安全保障の問題として認識されるようになってきたことを明らかにする理論である。コペンハーゲン学派の安全保障化理論に対して、ビゴやバルザックといったパリ学派といわれる研究者が批判を加え、発話に基づく安全保障化理論に対抗して実践に基づく安全保障化理論の展開している。このような実践に基づく安全保障化理論における理論的基盤をなすのがフーコーの生権力や統治性といった諸概念である。とくに、本研究では、フーコーの統治性の概念を用いて、国連安全保障理事会がどのようにして安全保障化プロセスを進めているのかを明らかにしてきた。 本研究では、安全保障化理論と統治性理論を用いて、国連安全保障理事会による人権保障ガバナンスがどのように構築されているのかを解明していく。国連安全保障理事会が、文民の保護、子どもの保護、女性・平和・安全保障といった一連の決議を出すだけでなく、それらの決議に基づく制度や運用を通じて、安全保障の領域を人間の生活や福祉にまで拡大していることを明らかにしていく。また、そのようなグローバルな統治性がコンゴ民主共和国やシリアでの内戦でも実効性があるのかという観点からも検討を加えてきた。さらに、実効性のあるグローバルな統治性が正当性をもつのかも検討した。
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