研究課題/領域番号 |
18K01491
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
杉之原 真子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (80376631)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グローバル化 / 海外直接投資 / 対内直接投資 / 規制政策 / 経済と安全保障 / 米国 / 日本 |
研究実績の概要 |
2021年度は、近年の米国と日本における対内直接投資規制の強化について政治学的分析を進めた。公表した研究成果は、主に米国についての部分であった。 安全保障上の緊張がある場合は国益が相対的に明確であり、政策目標が国家内で共有されると想定できる。一方、対外経済政策については、国内のアクターの利害はしばしば多様である。現在の国際政治経済では、米中の二大国間に安全保障上の緊張関係と密接な経済関係が併存している。このような国際環境に主要国がどのような脅威や利益を見出し、選好がどのように形成されているのかを知ることは、理論的にも、今後の国際社会の行方を占う上でも重要である。 米国では、2010年代に中国からの投資が増大すると中国への技術流出への懸念が高まり、安全保障上の懸念を理由に投資受け入れ規制が数次に渡り強化された。最近では2018年に外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)が成立し、審査を行う対米投資委員会(CFIUS)の権限が強化されたり、審査対象となる投資の範囲が拡大されたりといった改革がなされた。そこで同法の成立過程を中心として、政権内部・議会・世論の対内直接投資規制に関する認識の多様性を検討し、それが政策決定に与えた影響を考察した。 分析方法としては、1次文献・2次文献による事例研究と、データ分析を併用した。2018年FIRRMAは民主・共和両党の支持を得て成立したが、各議員や行政府内の選好を詳しく検証すると、支持の動機は、米中経済のデカップリング志向や米国の競争力維持、中国内の人権問題への懸念など、多様であることが分かった。また、データ分析を通じて各議員の法案に対する支持に影響を与える要因を検討したところ、選挙区ごとの中国からの直接投資という経済要因はほとんど影響を与えておらず、ある程度有意に効いていた要因は各議員のイデオロギー指数であったことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、事例研究やデータ分析を行い、論文の公刊や学会発表など成果の発表を予定通り進めた。ただし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、予定していた海外での調査が2020年度から21年度にかけて不可能だったため、インタビューによる事例研究の補完を計画通り実施できなかった。そこで研究期間を延長し、2022年度により充実した成果の取りまとめを行うことを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には成果の取りまとめを進めるとともに、2020年度・2021年度にはコロナ禍により実施できなかった米ワシントンDCでのインタビュー調査を予定している。 具体的な推進計画として、2022年度にはさらに日米の事例研究を進める。米国議会に関わるデータ分析については、地域ごとの直接投資受入額と貿易依存率を考慮に入れた分析を行ったうえで、インタビュー調査により補完して、対内直接投資規制の展開についてより深い分析を実行する。日本の事例についても、追加的なデータ収集やインタビュー調査を実施する。また、日米双方の事例について、国際環境の変化により2022年度に進行中の新たな展開も分析に取り入れる。 さらにその成果を、論文や学会発表、研究会で公表し、社会に還元したい。日本の経済安全保障戦略の文脈での対内直接投資規制について、2022年10月に学会の国際セッションで報告することがすでに決まっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症が収束せず、2020年度に続き予定していた米国ワシントンDCでの調査が2021年度にも実施できなかった。調査は2022年度夏に延期し、政策決定者や専門家へのインタビューおよび資料調査を実施する予定である。
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