研究課題/領域番号 |
18K01491
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
杉之原 真子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (80376631)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 経済安全保障 / 海外直接投資 / FDI / 個人情報 / 経済規制 / 米国 / 日本 |
研究実績の概要 |
本研究では、近年の米国と日本における海外直接投資(FDI)規制の強化について、政策決定者の動機や選好といった視点から政治学的分析を進めた。21世紀に入って以降中国が対外投資を増やすようになると、中国への技術流出への懸念が高まり、安全保障上の懸念から米国や日本では対内直接投資受入れの規制は2000年代半ば以降強化された。 近年の米国では、投資を通じた米国人の個人情報の流出が安全保障上の脅威となり得るという考えが広がり、TikTokのように既に米国に根付いたサービスについても、米国事業の売却命令等が検討されている。また、米国から中国への対外FDIについても制限を加えようとする動きがある。ただし中国と米国の経済関係は依然強固であり、米国企業にとっては中国市場の魅力も大きい。米国単独での規制強化は、米国企業を他国の企業に比べて不利な立場に置く可能性もある。FDIに関する規制強化は共和・民主両党から支持を得ており、議会やバイデン政権によって継続的に検討されているにもかかわらず、ビジネス界からの反対や経済全体への負の影響についての懸念によって進展が遅れている。 日本はFDI投資国であるものの対内FDIは経済規模に比べて限定的であり、2000年代から、対内FDIを増やすことは経済成長戦略の主要な柱とされてきた。同時に、中国からの投資の増大には、技術流出や主要インフラの管理という観点から懸念も持たれてきた。日本は主に行政主導で2000年代後半から規制強化を進めてきた。この問題に一部の政治家が積極的に関与するようになったのは2019年以降である。日本では、中国との経済関係の重要性は米国の事例以上であり、規制の強化を通じて中国への依存度を減じることは、企業および日本経済全体にとってマイナスの効果をもたらす可能性も高く、安全保障上の懸念と経済活性化のジレンマが政策決定を困難にしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナの蔓延に伴う研究の遅れのため研究期間を延長したが、2022年度も、夏に予定していた米国での調査を、日本政府による新型コロナ対応の水際対策継続のために実施できなかった。 これに代わってオンラインでの文献やデータの収集を通じた研究は実施することができた。研究期間を延長した結果として、海外企業による企業買収から生じる個人情報流出の懸念の高まりや、対外直接投資規制の強化検討といった最新の展開を検討することができたのは成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度から2022年度には、予定していた米国での調査を新型コロナ感染症蔓延のために実施できなかった。2023年度は米国での現地調査を実施し、近年の米国における海外直接投資(FDI)規制の強化について、インタビューや現地での資料の閲覧を通じて、これまでに行ってきた文献調査やデータ分析を補完し、政策決定者の動機や選好について一定の結論を得る。 またこれと並行して、データ分析に関しても、データベースに最新の情報を追加し、さらなる知見の獲得を図る。 日本の事例に関しても、文献調査や政策決定者・専門家へのインタビューを行い、FDI規制政策の動機に関しての検証結果をまとめる。 これらの成果をもとに論文を作成して国内外の学会や研究会で発表し、フィードバックを得て刊行につなげる。2023年7月には、世界政治学会(IPSA)での報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年夏に米国での現地調査を予定していたが、日本政府による新型コロナ対応の水際対策のため海外出張が著しく困難な状況となり、実施することができなかった。 未使用分については2023年度に繰り越し、2023年度秋の米国での調査の実施に使用する計画である。
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