対内直接投資の受け入れは経済成長および雇用の確保に重要であるとされる。先進諸国も投資受入れの自由化と促進を重視してきたが、米中対立の深刻化を背景に、対内投資を通じて国内産業基盤が外国企業や政府のコントロール下に入ったり、重要技術が移転したりすることへの懸念が生じている。先進諸国では過去20年間に、安全保障の観点から投資を制限する規制が導入されることが増え、規制の対象となる産業の範囲も拡大している。ただし安全保障要因が経済に与える帰結の不確実性ゆえに、国内政治の制度や利益集団の影響力が政策結果に大きな影響を与えていることも指摘できる。その点に着目し、本研究では、日本と米国の事例を中心に、海外直接投資の検討や導入を政治学的に分析することを目指した。 研究の最終年度である2023年度には、研究期間全体の成果を取りまとめるため、複数の論文・政策レポートを執筆した。論文「海外直接投資規制と米中対立:米議会の動向を中心に」では、2018年に成立した外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)の米国議会での提案と採決にあたって、中国からの投資によって議員の選挙区にもたらされる経済的利益や、中国脅威論の認識が、議員の行動にどのような影響を与えたかを分析した。2024年度公刊予定の"The Political Economy of Investment Screening in Japan"では、日本の投資規制の展開と特徴を論じ、日本の政策決定の仕組みが与えた影響を検討した。研究レポート「海外直接投資と安全保障:米国における規制の展開に基づく考察」では、個人情報の保護を目的とする投資規制や、中国への対外投資規制導入をめぐる米国の最近の動向を報告した。 2023年度は、8月下旬から12月に米国ハーバード大学ウェザーヘッド国際問題研究所に研究員として所属し、上記の研究を深めることができた。
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