研究課題/領域番号 |
18K01531
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堂目 卓生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (70202207)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ベンサム / ミル / 功利主義 / スミス / 共感 / 道徳 |
研究実績の概要 |
ジェレミー・ベンサムの『道徳および立法の諸原理序説』、ジョン・ステュアート・ミルの「功利主義論」、『自由論』などの基本文献、および二次的文献を読解することにより、功利主義者の共感概念を検討し、アダム・スミスの共感概念と比較した。 その結果、スミスの共感が歓喜や悲嘆、憤慨など、個々の感情に向けられる直接的なものであるのに対し、ベンサムやミルの共感は、諸感情によってもたらされる快楽または幸福に向けられるものであることが分かった。様々な感情を快楽という普遍量に還元することによって、社会全体の快楽を計算するという功利主義的方法が可能になる。スミスが想像力を使って感情の一致を求めるのにとどまるのに対し、ミルとベンサムは理性を使った計算をも含ませたといえる。功利主義的な共感概念は、国や文化によって起こり方が異なる様々な感情を普遍量に還元し、集計し、比較することを可能にするため、国や文化を超えた概念であるといえる。 現代において、この点を指摘するのが、ジョシュア・グリーンの『モラル・トライブズ-共存の道徳哲学へ』(2013)である。グリーンの考え方によれば、スミスの共感は「オートマチック・モード」の道徳、つまり社会内で「私」と「私たち」の利害対立を調停する道徳を導くのに対し、ベンサムやミルの共感は「マニュアル・モード」の道徳、つまり社会と社会の間で「私たち」と「彼ら」の利害対立を調停する道徳を導く。 以上のように、スミスの共感概念とベンサム、ミルの共感概念の違いが明確になり、その現代的意義も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画書に書かれた「ミルの概念がスミスの概念とどこが違うのか――共感の質の問題なのか、及ぶ範囲の問題なのか――を明らかにする。」を達成することができた。このことに加え、現代の脳科学、行動科学を踏まえた道徳哲学において、スミスとミルの違いが持つ意義が明確になり、これは研究計画書作成時の期待を上回る成果だと言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、ベンサムやミルの功利主義を受け継いだマーシャルを代表とする近代経済学の創始者たちが、どのような共感概念を持っていたかを検討する。特に19世紀後半に普及したダーウンの進化論の考え方が、経済学における共感概念に与えた影響を検討する。Raffaelli, T., Marshall’s Evolutionary Economics, (New York: Routledge, 2003)を手がかりに、マーシャルの諸著作を読解する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、セミナー等の参加のための旅費、および物品の購入が主な支出となり、人件費や謝金の支出がなかったために、次年度使用額がプラスになった。金額は大きくはなく、次年度中に執行可能と考える。書籍をはじめとした物品の購入、旅費等として支出する予定である。
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