研究課題/領域番号 |
18K01531
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堂目 卓生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (70202207)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マーシャル / 経済的騎士道 / 経済生物学 / 共感 |
研究実績の概要 |
アルフレッド・マーシャルの『機械論』(Ye Machine)(1867)や『経済学原理』(1890)等の1次文献、および Raffaelli, T. (2003) Marshall’s Evolutionary Economics等の2次文献を読解することによって、スミスから始まりベンサム、ミルへと引き継がれた共感概念が近大経済学の形成にどのように影響したかを考察した。 その結果、「人間能力のより高度な発展の可能性」というマーシャルの初期の心理学的なテーマが、経済学研究の中にも消えることなく引き継がれ、「変化と進歩に駆り立てられる人間存在」を主要な関心事とし,人間本性と産業社会の相互累積的発展を解明する「経済生物学」(economic biology)の構想へと展開されたことが分かった。産業発展とともに、人間の共感能力も開発され、経営者の側における「経済的騎士道」、労働者の側における「生活基準の向上」につながるとマーシャルは考えていた。 マーシャルの人間観は、人間には利己心だけではなく他人に共感する道徳的側面があるというスミスの人間観、あるいは人間はより質の高い快楽を求めるというミルの人間観を継承しているといえる。 しかしながら,マーシャルは経済生物学を完成することはできなかった。主著である『経済学原理』のほとんどは利己的な個人を想定した静学的な需給均衡論であり、このことは、その後の経済学から「共感」概念が消える原因の一端となった。 他方、マーシャルの経済生物学の構想は、場のあり方が人間性に影響するという現代の行動経済学の想定として部分的に復活したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書で示された、「ベンサムやミルの功利主義を受け継いだマーシャルがどのような共感概念をもって近代経済学を形成しようとしたか」は、概ね達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ライオネル・ロビンズ等、マーシャル以後の経済学者が「共感」をはじめとする人間の多様な側面を経済学の考察から除外した経緯を明らかにするとともに、アマルティア・センによる人間開発の経済学、行動経済学等、「共感」概念を復活させる近年の新しい動向について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、セミナーの多くがオンラインとなったため、旅費の支出がなく、書籍等の物品の購入が主な支出となったため、次年度使用額が発生した。金額は30万円近くあるが、次年度中に執行可能と考える。次年度も旅費の支出に関しては不確実な状況が見込まれるが、書籍等の物品の購入等で調整する予定である。
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