研究課題/領域番号 |
18K01531
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堂目 卓生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (70202207)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アダム・スミス / アマルティア・セン / 自然的正義 / 開かれた公平性 / 複数のアイデンティティ |
研究実績の概要 |
『アイデンティティと暴力』(2006)、『正義のアイデア』(2009)等、アマルティア・センの近年の著作をアダム・スミスの「公平な観察者」の視点から再検討した結果、ケーパビリティ・アプローチを唱えるセンの「開かれた公平性」(open impartiality、国家や民族、文化や宗教の違いを乗り越えた公平性)が、スミスが出版を計画した著作「法と統治の一般原理とその歴史」で明らかにしようとした「自然的正義の諸法」に関連するものであることが判明した。 スミスは『道徳感情論』(1759)の出版あと、国際法(law of nations)の基礎になる「自然的正義の諸法」を明らかにしようとしたが、この計画は最後まで実現しなかった。他方、センは個人が個人がケーパビリティを拡張するためには、複数のアイデンティを用いて、国家や民族、宗教や文化の違いを乗り越えて交際することが必要であること、そしてそうした交流の中で相互に共感することによって、国家や民族、文化や宗教などに左右されない「開かれた公平性」の視点を共有することができることを示している。この「開かれた公平性」にもとづいて、人類全体で共有できる正義の諸法を発見することができれば、それがスミスが生涯をかけて求めた「自然的正義の諸法」ということになる。以上のように、スミスの共感概念がセンのケーパビリティ・アプローチに引き継がれ、その中でスミスが求めた自然的正義の問題に解答が得られることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書で示された「センの議論がスミスの『共感』概念とどのような関係を持っているのかを検討する」に対して明確な結論を導くことができ、ゆえに研究目標はおおむね達成できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるため、これまでの研究にもとづき、特に「自然的正義の諸法」を導くための「開かれた公平性」を具体的にどのように構築していくのかを検討し、成果としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、セミナーやワークショップのほとんどがオンライン参加になったため、旅費の必要はなく、作業の効率化のための物品購入が主な支出となった。次年度も旅費の支出に関しては不確実な状況であるが、最終年度としての様々な活動を通じて予算執行を確実に進める計画である。
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