研究課題/領域番号 |
18K01592
|
研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
都丸 善央 中京大学, 経済学部, 准教授 (30453971)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 非対称性 / 内生性 / 寡占 |
研究実績の概要 |
本研究では、経済環境における諸々の非対称性を内生化しその発生メカニズムを解明するとともに、その惹起された非対称性がどのように経済全体に波及するか考察することを目標としている。当該年度では、次年度以降の研究・分析の礎とすべく、非対称性が所与の世界を前提として様々な角度から寡占市場の分析を図った。 第1に、既存研究で頻繁に用いられる不完全代替財モデルを一般化したことである。寡占市場であれ、各企業が生産する財が完全に同質であることはなく、少なくとも消費者にはそれぞれの財は異質であると認識するのが通常である。この点を考慮して、寡占の既存研究では各企業が不完全代替財であることを前提として分析を図ることが頻繁にある。とりわけ、その有用性・簡便性から、各財の逆需要関数が線形であるという過程がなされることが多い。線形性は需要や企業の技術の非対称性をとられるのには非常に都合がよい。そのため、それらの非対称性を包含する形でモデルが一般化される試みはほとんど見られなかった。それを試みたのが当該年度の本研究の第1の貢献である。 第2に、企業の所有構造の相違という観点に注目して分析を図った。現実の経済では、すべての企業が私的な投資家が所有する、いわゆる、私企業だけではなく、中央政府や地方政府といった公的部門が所有する公企業という異質な企業も存在し競争に従事している。それらの異質な企業間の競争は混合寡占市場と呼ばれ、これまで様々な視点から分析が進められてきている。当該年度では、不完全代替財を供給する公私企業間の競争において生産補助金が果たす役割について再検討した。本研究では、必要な生産補助金額が超過負担を生む税方式で調達されるというより現実的な想定を出発点として最適補助金政策を考察し、公私企業間競争が数量競争より価格競争で特徴付けられている方がより社会的に望ましいことを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は「非対称性の内生化」および「内生的な非対称性が及ぼす経済効果」の2つを解明することにある。これらを分析するには、第1に、与えられた非対称な条件の変化が経済に、特に、寡占市場にどのような効果を及ぼすかについて一定程度の解明・理解が必要条件とされる。これを果たしたのが当該年度である。次年度では非対称性の内生化の問題に着手することになるわけであるが、その準備が当該年度まででほぼ完遂できたといってよいと確信している。
|
今後の研究の推進方策 |
上述したように、与えられた非対称性に関する条件とその変化が及ぼす経済効果についてはある一定程度の知見が得られた。これを踏まえて、今後は非対称性の内生化の議論に進む。具体的には以下のことを想定している。前提として不完全代替財が供給される複占あるいは寡占市場に注目する。このモデルを前提として非対称性を議論するほとんどの既存研究では、(1) 線形の需要曲線のパラメータが財に応じて異なる、(2) 企業の限界費用というパラメータが異なる、のいずれか、あるいは、両方を考察している。すなわち、(1)、(2)のいずれもパラメータという所与の定数によって非対称性を捕らえている。今後の研究では(1)、(2)の定数を内生化することを目指す。特に、既存研究では全く検討されてこなかった(1)を重視するつもりである。 (1)の形の非対称性を要約すれば、「仮にすべての財が同一の価格で売られているとすれば、パラメータの大きい財はより多く買いたいと思うし、小さい財であれば少ししか買いたくない」という形の定式だといえる。この想定には大きな問題点がある。それは、すべての消費者が同一の選好を持つという極めて非現実的な仮定が背後に隠されているということである。すなわち、各財に対する好みの違いはあるが、その違いはすべての消費者で共有されている、ということが仮定されているのである。本研究ではこの隠された仮定を除去し、異なる選好を持つ消費者が多数存在する世界を出発点とする。消費者間で選好が異なる以上、財価格によっては財を購入しない決断をする消費者も出てくるはずである。その場合、いわゆる、市場逆需要関数は既存のそれとは大きく異なるものになる。この内生的に導出される市場逆需要関数を用いて、(1) 既存研究で提出されてきた結果がどう変化するか、(2) そもそも既存研究で想定している市場逆需要関数と整合的になりうるか検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究と密接な関連性を持つ混合寡占理論についての国際ワークショップが東京大学を中心として毎年開催されている。2018年度、このワークショップが2019年度に申請者の所属大学である中京大学で開催されることが決まった。これまでのワークショップでは、混合寡占理論について精力的に研究されている国際研究者を招いて基調講演をしてもらっており、また、その他報告者についても各国から研究者を招聘している。そこで、2019年度開催予定のワークショップに招聘する研究者の渡航費等を捻出するべく、次年度使用額が生じる研究費の使用を決断した。
|