研究課題/領域番号 |
18K01592
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
都丸 善央 中京大学, 経済学部, 准教授 (30453971)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非対称性 / 費用削減R&D / クールノー競争 / 寡占 |
研究実績の概要 |
本年度は、同質財クールノー寡占市場に2種類の非対称性を導入して、企業行動を見つめ直すことを検討した。ここでいう2種類の非対称性とは、外生的な非対称性と内生的なそれを指す。本研究では、企業はクールノー市場で生産量を選択して競争しあっているわけであるが、その競争における優位性を確保するために費用削減R&D投資を実行できるものとしている。すなわち、R&D投資という形で自分の限界費用を低下させることができるのである。この意味において、企業の技術は内生的な非対称性を生み出しうる。一方、企業のR&D投資そのものの技術は企業によって異なりうる。この点をとらえて、本研究では、各企業のR&D投資費用(を特徴づけるパラメータ)が異なることを想定した。この意味において、企業は外生的な技術の非対称に直面していることになる。これら2つの非対称性を導入して、企業のクールノー市場における行動を分析しなおしたのが本研究である。そうした想定から導かれた結果は以下のとおりである。まず、容易に想像できるように、R&D投資の限界費用が大きい(すなわち、R&D投資技術で劣る)企業はほかの優れた技術を持つ企業に市場シェアをできる限り奪われないようにするために、精力的に費用削減R&Dを実行しようとすることがわかった。しかし、その旺盛な費用削減R&D投資にもかかわらず、ほかの優れた技術を持つ企業よりも低い利潤しか得られないこともわかった。次に、本研究では、生産技術(すなわち、生産にかかわる限界費用)の分布とR&D投資そのものの限界費用パラメータの分布とを関連付ける分析を図った。現段階で分かっていることは以下のとおりである。内生的に定まる、各企業の生産の限界費用の平均を変えないように、R&Dの限界費用パラメータの分布が変化したとする。このとき、その分布の分散をそれなりに大きくするならば、産業利潤が増大することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた成果は、当初の研究計画で想定した研究ではない。したがって、当初の研究計画を遂行するという観点からすれば、本年度の研究遂行は遅れているというのが正しいかもしれない。しかし、本年度の研究成果は、研究計画で企図した研究目的に明らかに合致する。特に、本年度で明らかにした、あるいは、現在継続して明らかにしようとしている、内生的に企業の技術が変わるという非対称性の内生性が、外生的な要因たる費用削減R&Dの限界費用パラメータの分布とどのように関連し、そして、それが市場結果(すなわち、企業の生産技術水準の分布や生産量の分布)にどう影響するか検討するというものである。これは新しい視点であると同時に、内生的な非対称性を検討する本研究のテーマと完全に合致している。したがって、当初の研究計画からやや逸脱したものの、その逸脱がかえって予想もしなかった本研究にかかわる重要な視点を提供する形になったという点において、私は本研究が一定程度順調なる進展をみたと評価できると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
研究遂行の進捗度のところで述べたように、現在、当初の研究計画とは異なる研究に従事している。もちろん、それは本研究が目指す目的に合致しているだけではなく、本研究の本質にかかわりうるとわかったからである。そこで、今後は現在取り掛かっている研究を一通り進めたいと考えている。具体的には、外生的に与えられている企業のR&D投資の限界費用の分布と市場結果にかかわる分布(均衡生産量の分布、生産の限界費用の分布)を結びつけるメカニズム、そして、それを特徴づける条件を解明する。さらに、その成果を踏まえて、投資の限界費用の分布という根源的な要因の変化が、企業の利潤や社会厚生にどう影響するか検討したい。これらの研究を一通り済ますことができれば、当初の研究計画に戻り、消費者の需要の非対称性を考慮したクールノー競争の分析に取り掛かる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
毎年世界各地で開催している国際混合寡占ワークショップを、本研究代表者の所属大学で実施した。当ワークショップでは各国の混合寡占理論の第1人者たちをゲストスピーカーとして招くのが通例である。そのため、彼らの招待費用やワークショップ設営費用などそれなりの資金を用意しておく必要があった。ところが、報告者のキャンセルが発生したり、設営費用が予想していた額より多くなるなど、当初想定していた額と若干誤差が出てしまった。それが今回の次年度使用額が生じた理由である。
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