研究課題/領域番号 |
18K01640
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
久保 公二 学習院大学, 国際社会科学部, 教授 (00450528)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非公式な外貨取引 / 外国為替制度改革 / ミャンマー |
研究実績の概要 |
本研究は、2012年に多重為替制度を解消して外国為替市場の整備を進めるミャンマーで、民間企業が非公式な外貨取引を続ける原因を解明するものである。2012年に改革が始まる以前は、輸出入企業が国内の銀行に外貨預金口座を保有し、口座間振替を使って輸出獲得外貨を企業間で売買することが黙認されていた。2012年の規制緩和で、国内の銀行で外貨が実勢レートで取引できるようになり、二重為替状態が解消されたにもかかわらず、企業間の非公式な相対(あいたい)取引が続いた。多くの企業が銀行の対顧客取引を利用せずに非公式な相対取引を続けるのは、なぜか。本研究は、民間輸出企業を対象にアンケート調査を実施し、外貨両替手段の選択にかかる企業の行動を明らかにする。 まず本研究では、公式な外貨取引が2020年まで緩やかにではあるが成長していたことを、マクロ統計で確認した。市中銀行による対顧客の外貨取引(ドル売りとドル買いの合計額)の総額を中央銀行が公開している。この対顧客外貨取引額の推移について、貿易額と対比した比率が2014年の8%から2020年の58%まで上昇したことがわかった(仮にすべての輸出獲得外貨が銀行で両替されると、この比率は200%になる)。 しかし2021年2月の軍事クーデタを契機に、外国為替制度改革は大幅に後退し、本研究をとりまく環境が急変した。軍政は段階的に輸入規制を強化し、2022年4月にはこれまで黙認されていた企業間の非公式な外貨取引も禁止され、輸出獲得外貨は固定レートでの兌換が課されている。違法となった企業間の外貨の相対取引は、今後かたちを変えて水面下に潜ると考えられるが、輸出企業に体系的なアンケート調査を行うことは難しくなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ミャンマーでは2020年3月から新型コロナウィルス感染症拡大への対応で国境が封鎖されたのに続き、2021年2月の軍事クーデタののちに強権的な外国為替管理規制が発動されたため、同国の民間輸出企業を対象とした外貨両替手段のアンケート調査を行うことが事実上不可能になった。本研究で取り上げている民間企業の非公式な相対での外貨取引は、2018年の調査開始時点では当局にも黙認されていた。しかし、そうした相対取引は2022年4月の中央銀行通告により明確に違法とされたため、企業の情報開示が期待できなくなった。 見方を変えると、クーデタ後に軍政が銀行に対して民間企業の輸出獲得外貨の兌換を課すに至ったことは、企業の非公式な相対取引が外貨管理上の抜け穴であったことを示唆している。外貨管理の抜け穴を塞いだ軍政はさらに、銀行に対して企業からの外貨の買い取りをそれまでの実勢レートではなく固定レート(2022年5月現在で1850チャット/ドル)で行うよう指示した。その結果、不利なレートでの外貨兌換を避けたい企業が今後新たなかたちの非公式な取引を始めて、ミャンマーが再び多重為替状態に陥ることが予測される。以上のように、ミャンマー経済の分析のうえで本研究課題の重要性が増している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年2月のクーデタ以降、軍政下で外国為替管理が強化されて企業アンケート調査が実施できなくなったため、入手可能な二次資料を利用してクーデタ後の外国為替制度改革の後退を検証することで、本研究を推進する。二次資料には、現地の新聞報道等にくわえて、ミャンマー中央銀行が公開している金融統計や国際通貨基金のレポートが含まれる。これらの資料を用いて、二重為替状態、すなわち実勢市場レートと外貨兌換に適用される公定レートの乖離の度合いなど、制度改革の後退を検証することができる。 また、外国為替管理の強化によって民間企業の輸入も制限されて密貿易が増えることが見込まれるため、密貿易の推計も行う。ここでは、ミャンマーと貿易相手国の貿易データの差異を密貿易の指標とみなし、規制強化前後の推移を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミャンマーの調査会社に輸出企業を対象に外貨両替手段についてのアンケート調査(標本数200社、予算200万円程度)の委託を予定していたが、新型コロナウィルス感染症拡大にくわえて2021年2月に起きた軍事クーデタとその後の規制強化によって調査が実施できなくなり、研究費を繰り越している。 2022年度は、企業アンケート調査に代えて、ミャンマーの現地マーケティング会社からのデータ購入と、国内外のミャンマー経済研究者との情報交換のための出張を予定している。データ購入については、2012年以前のミャンマーが二重為替制状態にあったころに実勢レートの日次データを集計して販売していた現地の会社があるので、そうした会社からの調達を試みる。
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