研究課題/領域番号 |
18K01719
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
粕谷 誠 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40211841)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 都市銀行 / 投資銀行 / 証券業務 / 国際業務 / 信託会社 |
研究実績の概要 |
本研究は戦間期の都市銀行において,投資銀行業務がどのように発達してきたのかを明らかにするが,具体的には社債引受などの証券業務と外国為替などの国債業務がいかに発達していたのかを実証的に検討することとしている。 証券業務については,事業債の引受については研究が進んでおり,特殊銀行である日本興業銀行のほか,都市銀行である三井銀行・三菱銀行・住友銀行などが巨額の引受をおこなっていたことが明らかとなっていたが,引き受けた事業債を引受銀行が発行時にどの程度売りさばくことができていたのか,についてはほとんど研究がおこなわれていない。これを解明するためには,引受社債と銀行の保有社債を比較するのが一つの方法であるが,それには銀行の保有証券の明細表を整備する必要がある。その保有証券の明細表の整備を現在おこなっている。 また戦間期においてこうした証券がどのような部門により発行されていたのかを明らかにするために,大企業における経理組織の発展を明らかにした。日本においては明治初期に会計制度が導入されているが,今日の日本では,資金調達・資金管理などの業務と原価計算などの統制業務が一つのセクションにまとめられる傾向があり,それは経理部とよばれることが多い。そうした傾向は戦間期に発生し,戦時統制法規である会社経理統制令により一段と強まったことが明らかとなった。戦間期の事業債の発行は,こうした経理部門で企画され,社債引受銀行との交渉がおこなわれていたと推察されるが,このことに関する実証的研究は今後の課題として残された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる資料は,外務省外交史料館に所蔵されていた銀行の営業報告書(業務報告書)である。株式会社である銀行は株主に対して決算期ごとに営業の報告を印刷された報告書でおこなったが,それとは別に監督官庁である大蔵省により詳細な業務報告書を提出した。後者はほとんど閲覧ができないが,中国に店舗を持っていた銀行は領事を通じて大蔵省にそれを提出しており,外務省外交史料館にそれが残され,今日ではオンラインで閲覧が可能となっている。まずはそのデータを集め,証券の明細書を作成することをおこなっている。そしてこれを銀行の債券引受業務と比較するためには,保有証券のうちどれが引き受けた証券であり,どれがそうではなく,市中で購入したのかを明らかにする必要があり,突き合わせの作業をおこなっている。また途中で証券保有額が減少した場合は,抽選償還によるのか,市中への売却によるのかを見分ける必要があり,それは日本興業銀行が発行した『公社債明細表』での抽選償還のデータとの突き合わせの作業を必要とする(ここでは抽選償還があったときの少額の減少は,抽選償還に応じたものと判断している)。 さらに会計組織に関する資料を三菱史料館において,三菱合資会社および財閥傘下の三菱分系会社について収集したうえで,当時刊行されていた会社年鑑などと突き合わせ,大企業において会計組織がどのように編成されていたのかについての研究成果を発表した。 今後は,住友史料館が所蔵する住友銀行資料,大阪大学が所蔵する山口銀行資料・三十四銀行資料を調査する必要があるが,研究は概ね順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは外務省外交史料館に所蔵されていた資料の収集と整理を中心におこなってきたが,投資銀行業務をおこなっていた都市銀行である三井銀行,三菱銀行,住友銀行および信託会社である三井信託,三菱信託,住友信託については,それぞれ三井文庫,三菱史料館,住友史料館に資料が収集されている。このうち三井銀行・三井信託についてはすでに資料が収集されているので,三菱銀行・三菱信託および住友銀行・住友信託について資料を収集する必要がある。とくに住友史料館は京都にあるので,京都での資料収集が必要となる。また大阪大学には,三和銀行の前身である山口銀行および三十四銀行の資料が保管されているので,これら財閥系銀行に次ぐ銀行の資料収集もおこなっていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については概ね予定通りであった。旅費については,外務省外交史料館に関する調査を優先させたため,住友史料館および大阪大学での資料調査を十分におこなうことはできず,その結果,旅費の使用が予定を下回っている。次年度以降は,これらの調査を本格的におこなう予定なので,使用が増加する見込みである。人件費・謝金もほぼ予定通りの使用であった。その他については,英語で発表する論文の校閲を依頼する予定であったが,国際学会での発表ができなかったため,校閲を依頼することがなかった。次年度以降はこの分野についても注力したい。
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