研究課題/領域番号 |
18K01732
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
谷ヶ城 秀吉 専修大学, 経済学部, 准教授 (30508388)
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研究分担者 |
大島 久幸 高千穂大学, 経営学部, 教授 (40327995)
岡部 桂史 立教大学, 経済学部, 教授 (60386472)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 総合商社 / 多国籍企業 / 人的資源管理 / アジア太平洋経済圏 / 経済史 |
研究実績の概要 |
本研究は,戦前の商社が構築した組織と機能が戦後のそれへと階調的に変化し,定着していく過程の解明を目的とする.近年の経済史ないし経営史研究の領域では,日本の経済成長に貿易面で寄与した商社を分析の対象とする成果が数多く提出されている.しかし,それらのほとんどは戦前だけを事例としたもので,戦前の商社が構築した組織や機能が現在(戦後)のそれへと継承されていく過程は,資料の制約とも相俟って不明の点が多く,検討の余地を残している.そこで本研究では,(1)輸出入の拡大に対する商社の寄与を定量的に把握し,(2)人的資源や技能・国際的信用に関する連続/継承の問題を検証するとともに,(3)これらの研究推進に際して基幹資料となる大庭定男文書(国文学研究資料館所蔵)の整理の3点を3年間の研究期間中に進めることにした(昨年度からの継続). この3つの研究課題のうち,令和元年度は,(1)と(2)の2つの課題に研究資源を多くを割いた.具体的には,(a)「第三屆臺灣商業傳統國際學術研討會:海外連結與臺灣商業」(中央研究院台湾史研究所主催)の報告準備,(b)米国立公文書館における資料調査,(c)三井物産元従業員に対する聞き取り調査,(d)三井物産職員録のデータベース化,(e)大庭定男文書のデジタル化の5点を進めた.そのほか,研究成果として谷ヶ城秀吉「高度経済成長期における総合商社の商取引に関する歴史分析:三井物産を事例に」(『専修大学社会科学研究所月報』673号,2019年7月)を得た. なお,令和元年度は,COVID-19の流行のために海外での資料調査を断念せざるを得なかった.2年度も事態が好転しなければ,同様の状態に陥る可能性があるが,支出用途の変更やインターネットの活用などを通して研究推進への影響を最小限にとどめたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で概要を記したように,令和元年度は本研究が掲げた課題の(1)および(2)の遂行に資金と労力を費やした.(1)の課題に関連して,(a)1950-60年代における日台貿易の担い手の特長を統計データの整理に基づいて明らかにする作業に取り組み,令和2年に開催される前掲「第三屆臺灣商業傳統國際學術研討會」で発表する準備を進めた.(2)の課題に関連して,(b)商社機能の国籍による無差別性を解明するために米国立公文書館で資料を収集した,(c)戦後の欧米各国で活動した三井物産元従業員に対する聞き取り調査を実施し,音声データを反訳した,(d)戦時から戦後にかけての三井物産職員録をデータベース化した(本年度は1956年度から1961年度までの作業を終えた).最後に(3)の課題に関連して,(e)平成30年度に仮目録の作成した大庭定男文書のデジタル化を進め,本研究の推進に必要となる箇所の作業をおおむね終えることができた. 研究成果としては,前掲した谷ヶ城秀吉「高度経済成長期における総合商社の商取引に関する歴史分析:三井物産を事例に」を執筆した.同稿では,三井文庫が所蔵する『商品別考課状』の取引先データを整理して取扱高階層の二峰性を確認しつつ,総合商社の取引に係わる集団外企業の重要性を展望した. 他方で,COVID-19の流行のために,中国・南京にある第二歴史档案館での資料調査を実施できなかった.また,同様の理由から,報告が採択済みであったWorld Congress of Business History(WCBH)も令和3年に延期となった.以上のように,令和元年度に予定した研究の大部分は順調に進展しているが,COVID-19の影響で一部の研究を実施できなかったため,本年度の進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,前掲の課題(1)と(2)の研究を引き続き進める.(1)の課題に関連して,(a)令和2年に開催される「第三屆臺灣商業傳統國際學術研討會」で成果を発表する準備を進める.(2)の課題に関連して,(b)研究代表者と分担者で,主に欧米での駐在経験や取引業務に携わった三井物産元従業員に対する聞き取り調査を昨年度に引き続き実施する,(c)三井物産職員録のデータベース化を継続する,(d)大庭定男文書のデジタル化作業を完遂するとともに,同資料を利用して戦後における総合商社の活動を検証する.さらに,(e)研究最終年度に入り,研究の取りまとめや資料公開,研究成果の学会報告(年次大会でのパネル報告など)に関する研究会を定期的に開催する. COVID-19に対するリスク管理は,次の2つを考えている.第1に,本年度は戦間期の日米貿易と商社の関係を検討するために米国立公文書館で資料を収集する予定だが,米国の状況次第では渡航できない可能性もある.予算に計上している調査旅費については,関連する一次資料の購入に充当するなど,研究推進への影響を最小限にとどめる方策を検討する.第2に,三井物産元従業員への聞き取りは,聞き取り対象者の健康やCOVID-19に関する政府・自治体の基本方針・措置・要請を踏まえて対応し,オンラインによる面談の可能性も探りたい。第3に研究代表者・分担者による定期研究会は,COVID-19の収束状況を見据えつつ,当面の間はオンライン会議を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は,令和元年度に予定していた中国・南京の第二歴史档案館における戦前期商社関係資料の調査がCOVID-19の影響で実施できなかったことに求められる.本来であれば,令和2年度に改めて同調査を実施することが望ましいが,COVID-19の収束は不透明で,実施は困難であると思われる.そこでCOVID-19の流行が収束しない場合には,三井物産職員録のデータベース化や本研究の推進に関連する一次資料の購入に予算を振り向けることにしたい.
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