研究課題/領域番号 |
18K01829
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研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
馬場 靖憲 麗澤大学, 経済学部, 特任教授 (80238229)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 破壊的イノベーション / 日本企業 / 事例分析 / 研究開発 / 探索活動 / 新規事業開発 |
研究実績の概要 |
「両手利き組織」が研究開発における探索活動と知識利用との間でどのようにバランスを取って、破壊的イノベーションによる事業構造の転換を実現しているか、富士フイルムの事例をコダック社の事例と時系列的に比較分析した。本研究は、両社の技術とビジネスに関する技術探索を特許データに基づき数量化し、企業の探索活動が企業業績に与える影響をみた。 両社は、類似したコア技術を保有しており、特許出願数は2010年代初頭までは上位5位に関して類似する一方、上位6位から13位に関しては異なった出願動向を示した。コダックの場合、出願数は増減を繰り返し探索活動においては活動領域に一貫性がないのに対して、富士フイルムの場合、すべての技術分野で上昇傾向がみられコア技術に加え周辺技術について技術探索を続けていた。富士フイルムの一貫した探索活動とコダックの探索における迷走は極めて対照的である。両社とも医療機器を当初有望な新規事業分野とみなし技術探索を開始したにもかかわず、富士フイルムが最終的に事業の軸足を医療分野にシフトさせたのに対して、コダックは医療関連分野から最終的に撤退した。最初は類似したコア技術を保有した両社であるが、結果的にその事業構造と社業の盛衰は大きく異なることになった。 研究開発と事業展開を比較することによって、本研究は、企業がその探索活動において継続性(persistency)を実現するか否かが、事業構造の変革と企業変革への引き金を引く破壊的イノベーションの成否に大きく影響することを示した。二社のケース分析からは、さらに、組織における知識蓄積とその活用パターンが企業の探索活動における継続性(persistency)に影響することが示された。本研究は、破壊的イノベー ションを両手利き組織の枠組みから研究する際に、探索活動における継続性という概念が有効であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年からのコロナ禍により、感染防止の観点から国内外で開催されるはずだった学術集会の多くが中止を余儀なくされた。その結果、研究費に当初、計上した旅費による出張は中止され、学術集会での討論により初めて可能になる研究論文の投稿に向けた練り直しが難しい状況となった。その結果、英文論文の最終稿の作成に大幅な遅延が発生し、当初、予定した英文校閲も未達になり「その他」経費に多くの未消化が発生した。 2022年4月現在、感染の収束に関する見通しは明るくなってきたが、進行中の論文作成について、どのように外部研究者の意見・批判を採り入れて論文としての質を向上するか、どのように研究論文の早期の公開が可能か、模索状況が続き、結果的に研究の進捗には遅れが発生している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究による質問票調査からは、日本企業において探索型研究を縮小する企業が多くみられた。表面的には、探索活動の縮小によっ て新規事業、また、破壊的イノベーションへの取り組みの熱意の低下が危惧される。しかし、実は、それらの企業の経営陣は、「イノベーションのジレンマの弊害を 十分に学習しており、多くの企業が、探索研究を既存事業から切り離し、新規事業開発に特化させる等、破壊的イノベーションを視野に入れた戦略的な 対応に取り組んでいる。日本企業には、明らかに日本企業に適した形で「両手利き経営」に向けて試行錯誤を始めており、本研究で収集した知見の分析を、従来からの研究成果と統合化し、日本企業に適した「破壊的イノベーション」の可能性、ま た、それを実現するために必要となる経営方法論を学術的に明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年からのコロナ禍により、感染防止の観点から国内外で開催されるはずだった学術集会の多くが中止を余儀なくされた。その結果、研究費に当初、計上した旅費による出張は中止され、学術集会での討論により初めて可能になる研究論文の投稿に向けた練り直しが難しい状況となった。その結果、英文論文の最終稿の作成に大幅な遅延が発生し、当初、予定した英文校閲も未達になり「その他」経費に多くの未消化が発生した。 2022年4月現在、感染の収束に関する見通しは明るくなってきたが、進行中の論文作成について、どのように外部研究者の意見・批判を採り入れて論文としての質を向上するか、どのように研究論文の早期の公開が可能か、模索が続き、結果的に、研究の進捗には遅れが発生している。科研による研究の遂行スケジュールを考慮して、現在、進行中の論文草稿について、国際学会での議論を経ずに直接に学術誌に投稿することを考えている。すなわち、従来、行っていた研究集会でのチェックを受けて投稿論文の作成に移る研究プロセスをスキップし、専門家による論文内容の校閲を受けるプロセスを開始した。
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