本研究は、日本企業に破壊的イノベーションは可能か、考察するために課題に対する日本を代表する成功企業である富士フイルムの事例を両手利き組織の枠組みから分析した。先ず、製品市場に着目し既存市場でのコア製品と探索から得られる新製品の代替可能性の視点から富士フイルムの市場展開をみると、同社のイノベーションの事例には既存製品を食い潰す共食いタイプよりも補完的なタイプが多く、同社の場合、製品間の補完性を実現することを目指した組織行動と構造改革が実現されたことが判明した。さらに、企業の探索活動を特許データに基づき数量化して富士フイルムとイノベーションに失敗したコダックのケースを比較した結果、両社の対照的な業績はその探索活動の継続性の有無によって説明され、富士フイルムに顕著な探索の継続性は同社における特徴的な知識蓄積とその活用パターンによって可能になった事が判明した。特許実績と事業展開を比較検討する事を通じ、本研究は、企業がその探索活動において継続性(persistency)を実現するか否かが、企業において破壊的イノベーションを実現する主要要因として機能すると主張する。 以上、本研究は、破壊的イノベー ションを考察する際には両手利き組織の枠組みが有効であり、製品市場における既存のコア製品と探索から得られる新製品の代替可能性と、同じく、探索活動における継続性の視点から明らかになる企業の知識蓄積とその活用パターン、の両者が破壊的イノベーションの成否に影響する可能性を明らかにした。その分析手法の新規性と政策的含意により,本研究の研究成果は研究課題に関する世界的主要ジャーナルであるR&D Management誌に二編、出版されている。
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