本年度は、昨年度までの調査の分析結果に基づき、店内における媒体及び広告エンゲージメントを当該広告への選択的注意を強化する先行条件として想定しつつ、両エンゲージメントの水準と購買環境における周辺情報との相互効果が後続効果に与える影響に関する検証を行った。当初予定していたアイカメラを利用した店舗実験は新型コロナウィルス感染症の影響により実施が困難となったため、シナリオ法による実験調査をウェブ上で具現する形式の調査と模擬店舗での観察調査に代替し実施した。まず、シナリオ実験では「広告メッセージと広告評価及び成果行動との関係」「広告の知覚動機と広告認知及び評価との関係」「周辺情報及び店舗特性の知覚水準と媒体及び広告エンゲージメントとの相互効果」に焦点を当て、分析を行った。その結果、店内における媒体及び広告のエンゲージメント水準が店頭広告の評価水準へ有意な影響を与え、周辺情報と店舗特性の不一致形態が店頭広告の全般的な誘因効果を伸縮させることが検証された。また、模擬店舗における観察調査では広告形態及びメッセージの操作と、広告注視と広告効果の関係を主要課題としつつ分析を行った。その結果、広告のメッセージ形態と広告注視度及び商品選択との関係が明らかになり、事後回想型のシナリオ実験と類似した傾向も確認された。 このような結果は媒体及び広告エンゲージメントと周辺情報及び店舗特性との付合形態が、店内コミュニケーション戦略の全般的な効果を強化する要因になっていることを示しており、購買環境における多様な周辺情報との関係を考慮し設計された店頭広告の戦略的意義を喚起するものものであるとも言える。店内のエンゲージメントの効果測定体系の抽出を試み、当該効果を強化する先行条件を規定した本研究で提示された知見は今後、店内コミュニケーションにおける戦略的オプションの多様性の確保に貢献するものになると考えられる。
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