研究課題/領域番号 |
18K01981
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
長瀬 修 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (60345139)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 東アジア / 人権 / 障害学 / 市民社会 / 差別 / 共生 / 国際条約 / インクルージョン |
研究実績の概要 |
★研究計画に基づいて着実に研究を進め、引き続き研究成果を文献で発表した。知的障害者と共同作業で作成した『わかりやすい障害者権利条約』を2019年9月に編者として刊行した。アクセシビリティ(障害者権利条約第9条)の一環として、国際的に推進されている、知的障害者を念頭にした、わかりやすい表現による情報提供の一環である。また、個人の不可侵性に関する障害者権利条約第17条と深く関係する、旧優生保護法による強制的不妊手術の被害者の声を記述した一章を、英国、カナダ、ジンバブエの編者による"The Routledge Handbook of Disability Activism”に寄せた。 ★2019年10月に中国武漢にて開催された東アジアの韓国、中国、台湾、日本を対象とする障害学国際セミナー2019では引き続き共同議長を務め、重鎮であるTang Jun(中国社会科学院社会政策研究センター研究員)の基調講演を受けて、指定発言者を務めた。それ以外でも、リトアニア(ビリニュス)、中国(北京他)の国際会議で障害者権利条約に関する講演を行った。 ★公開講座「障害者差別解消法の見直しの課題ー障害平等研修と障害の社会モデル」を科研費基盤(A)「多様性の経済学」(研究代表者:松井彰彦)主催、本研究が共催で2019年11月30日に東京大学にて開催した。また、「障害者の地域での自立生活と障害者権利条約」に関する講演会を国連障害者権利委員会副委員長のJonas Ruskus (リトアニアのヴィータウタス・マグヌス大学教授)を講師として、立命館大学生存学研究所主催、本研究が共催で2020年1月27日に立命館大学にて開催した。同じく障害者権利委員会副委員長である石川准(静岡県立大学教授)には、障害者権利委員会第22会期について2019年9月に静岡県立大学にて聞き取りを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
★成果の社会的還元を国内的、国際的に進めることができている。国内的には、『わかりやすい障害者権利条約』を編者として刊行した。アクセシビリティは物理的アクセシビリティと情報アクセシビリティが含まれる。前者には例えば車いす利用者のスロープがあり、後者にはろう者への手話通訳や難聴者への筆記・文字通訳が含まれる。知的障害者にとっては、後者の情報のアクセシビリティの重要性が高い。国際機関でも重要な文書を公開する際に、わかりやすい形での情報を公開する例が増えてきている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しても、知的障害者に情報を伝えるために、わかりやすい形での情報提供が進められている。 ★国際的には、”The Routledge Handbook of Disability Activism”に、“Voices From Survivors of Forced Sterilisations in Japan- Eugenics Protection Law 1948‐1996”と題する1章を英国、カナダ、ジンバブエの編者からの依頼により、旧優生保護法下で不妊手術を強制的に受けさせられた障害者の声を紹介する形で執筆した。残念なことに日本を含む多くの国で現在も行われている強制的な不妊手術は、障害者権利条約の審査では主に「個人をそのままの状態で保護すること」に関する第17条で取り上げられている。 ★前述のように、東アジアの韓国、中国、台湾の研究パートナーと共に、所属する立命館大学生存学研究所が共催で、全員参加の社会(Inclusive Society for All)という障害者権利条約の重要な「一般原則」(第3条)を主題とし、中国武漢にて2019年10月に開催された障害学国際セミナ―2019に共同議長として参加した。その他、国内外の講座やセミナーに参加し、研究成果の共有に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックという世界的危機を受けて、2020年度は障害者権利条約の特に「生命への権利」に関する第10条、「危険な状況及び人道上の緊急事態」に関する第11条、「健康」に関する第25条を重視した研究を推進する。①<文献研究>障害学そして障害者権利条約全般、特に上記の3条に深く関係する文献研究を継続して行う。障害者権利委員会が作成する新たな総括所見や一般的意見も検討する。②<研究会の開催>障害者権利委員会副委員長として審査に携わる石川准(静岡県立大学教授)からの聞き取りを行い、同委員会の最新動向を把握する。また、情報・意見交換の場として活用する障害学国際セミナーは当初、2020年9月に立命館大学において開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響で2021年に延期となったが2020年度内である2021年1月から3月までに開催できる可能性があり、引き続き連携を保つ。なお、2020年内に東アジアの障害学国際セミナーとして、緊急に新型コロナウイルス感染症と障害者というテーマで英語でのオンラインセミナーを、本研究が共催として開催を模索する。また、国内的にも、文字通訳や手話通訳を確保した形で、オンラインセミナー形式で、同様のテーマでの研究会の開催を模索する。③<研究パートナーとの共同分析>引き続きオンラインでの連絡を密にして、分析に継続して取り組む。 ④<障害者権利委員会の傍聴>、2020年度に予定されている日本の初回審査を含め、新型コロナウイルス感染症の影響を見極めながら、ジュネーブの障害者権利委員会に出席し、条約実施の国際的動向を把握し、東アジア各国・地域への影響を把握する。⑤<研究成果の論文・書籍での刊行>発表を適宜、進める。包括的な研究報告としての出版(和英)以外にも、論文等で時宜を得た社会的発信を行う。
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