研究課題/領域番号 |
18K01995
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 紀行 京都大学, 文学研究科, 准教授 (20212037)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マックス・ヴェーバー / 社会学史 / 社会学理論 / 知識社会学 |
研究実績の概要 |
2019年度はほとんどもっぱらアメリカを中心とする英語圏の社会学におけるヴェーバー受容史の研究に従事し、主としてパーソンズにおけるヴェーバー受容に関する研究に取り組んだ。またその一環として、アメリカ社会学全般におけるヴェーバー受容の趨勢について、先行研究および関連資料を読み進めた。この過程で、社会学におけるヴェーバー受容にとっての初期パーソンズの代表作『社会的行為の構造』(1937年)の(ヴェーバーとデュルケムの社会学の正典としての地位の確立ならびに行為理論を軸とするヴェーバー解釈の両面における)決定的重要性、ヴェーバー翻訳者としてのパーソンズの役割、パーソンズ自身の社会学理論と彼によって選択的に受容されたヴェーバー社会学との不可分な関係といった基本的な論点をあらためて検討することができた。さらに、初期パーソンズのヴェーバー受容にとっての中心的動機・関心が、経済学からの社会学の差異化によるアイデンティティ確立、また彼の構想する社会学の同時代のアメリカ社会学(特にシカゴ学派)との差異化にあったことや、戦後(西)ドイツにおけるヴェーバー受容にとってパーソンズやベンディクスに代表されるアメリカの社会学者の貢献が非常に重要であること(この点は戦前からヴェーバー研究が継続していた日本におけるヴェーバー受容と事情が異なる)などが明らかになった。とはいえ、社会学全体におけるヴェーバーの地位の確立においてパーソンズが果たした役割を相対化するには、パーソンズ以前および彼と同時代の社会学者たちがヴェーバーをどう評価していたかを検証し、それをパーソンズのヴェーバー解釈と比較する必要があるが、それは今後の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度の2018年度は在外研究の機会を利用できたこともあって比較的順調に研究を進めることができたが、2019年度はパーソンズのみならずアメリカ社会学史におけるヴェーバー受容に研究テーマを移したため、カバーする文献資料の量が膨大となり、限られた時間の中で消化しきれなかった。ヴェーバーとパーソンズの関係についての先行研究は前年度に引き続きかなり収集・検討することができたが、先行研究において主張されている見解を大きく変更するのに十分な論拠を資料から読み取るには至っていないというのが実情である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前年度までに行ったパーソンズのヴェーバー受容およびパーソンズを中心とするアメリカ社会学におけるヴェーバー受容の特質に関する研究を踏まえて、アイゼンシュタットにおけるヴェーバー受容の展開を彼のパーソンズとの関係の変化を軸として分析する予定である。いずれに関しても研究方法は今までと同様に、関連する社会学者の著作の読解と分析となる。特にアイゼンシュタットに関しては、(1)彼の比較歴史社会学が1960年代にはパーソンズの構造機能主義の影響を受けつつそのマクロ社会学的枠組に修正を加えており、同時期にヴェーバーのカリスマ論やプロテスタンティズム研究に取り組んでこれらに独自の解釈を加えていたこと、(2)1980年代にはシュルフターの主宰するヴェーバーの『世界宗教の経済倫理』に関する共同研究に参加しており、この時期以降「軸文明(Axial Civilizations)」および「多元的近代(multiple modernities)」をキー概念とする比較歴史社会学の新たなプロジェクトを展開したことが注目される。このようにアイゼンシュタットにおいてヴェーバー受容と独自の社会学的研究プログラムの彫琢の間には重要な関係があったのではないかと推測されるため、両者間の関係がどれほど密接なものだったのかを、パーソンズにおけるヴェーバー受容のケースと比較しながら明らかにしていきたい。最終的には、パーソンズ、アイゼンシュタット、シュルフターの選択的なヴェーバー受容がそれぞれの社会学者の戦略にとってどのような意味を持っていたのかを、知識社会学的観点を交えて考察できればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に残った残額について適当な用途が特に見当たらず、少額なので次年度に回すことにした。事務用品の購入に充てる予定である。
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