研究課題/領域番号 |
18K02022
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研究機関 | 一般財団法人大阪国際児童文学振興財団 |
研究代表者 |
鷲谷 花 一般財団法人大阪国際児童文学振興財団, その他部局等, 特別専門員 (10727100)
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研究分担者 |
土居 安子 一般財団法人大阪国際児童文学振興財団, その他部局等, 総括専門員 (00416257)
紙屋 牧子 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 研究員 (20571087)
岡田 秀則 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (30300693)
吉原 ゆかり 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70249621)
アン ニ 日本映画大学, 映画学部, 特任教授 (70509140)
鳥羽 耕史 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90346586)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スクリーン / 幻灯 / アニメーション / 映画 / 国民的歴史学運動 / 社会運動 / 女性労働問題 / 日中文化交流 |
研究実績の概要 |
2018年度は、占領期の貴重な資料を何点か新たに発見、修復・保存作業を完了した。徳島キネマミュージアムの所蔵フィルム資料に、1946~47年に製作された近藤日出造作画『新日本の種まき』と、戦時中から継続して製作されていた幻灯によるニュース『幻燈月報』が含まれているのを発見、修復作業を行った。また、大原社会問題研究所に1951年に中国で刊行された連環画本『松川事件』が所蔵されていることを確認し、修復・保存・デジタル化作業を行った。 高畑勲監督『太陽の王子ホルスの大冒険』の原作となったものの、従来ほとんど内容を知られていなかった人形座『春楡の上に太陽』の台本を確認し、当時の関係者にインタビューを行ったことで、国民的歴史学運動の流れを汲む人形劇が、高畑勲・宮崎駿・大塚康生らが参加した東映アニメーション映画の初期の代表作に繋がる系譜を確認した。 版画家鈴木賢二の幻灯作品紹介を中心とする原爆の図丸木美術館「1950年代幻灯上映会」(2018年6月23日)、川崎市市民ミュージアム「かこさとし幻灯上映会」(2018年8月19日)ほかで、幻灯フィルムと幻灯機による一般向けの上映を行った。また、神戸映画資料館にて、望月優子の出演及び監督作品を上映し、映画俳優・映画監督・社会活動家としてのユニークな実績を再検証する「望月優子特集上映」(2018年12月28日)を開催した。 以上の研究実績については、鷲谷花「美しい悪魔の妹たち:『太陽の王子 ホルスの大冒険』にみる戦後日本人形劇史とアニメーション史の交錯」(『ユリイカ』2018年7月号)、鷲谷花「マンガ・プロジェクション―戦後日本大衆文化におけるマンガ・劇画のスクリーン映写」(光岡寿郎、大久保遼(編)『スクリーン・スタディーズ:デジタル時代の映像/メディア経験』東京大学出版会、2019年1月)ほかで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昭和期の社会問題・社会運動と映像メディアの関連を示すオーラル・ヒストリー及び、フィルムや台本等の一次資料の収集を進め、従来ほとんど存在の知られていなかった貴重な資料を何点か発見し、現物の修復・保存作業及びデジタル化を完了することで、長期保存及び公開のための準備を整えた。新たに発見した資料の精査により、戦時中の国策宣伝教育のための幻灯の製作および頒布を担当した組織及び人材が、占領初期の日本政府及び占領当局の広報目的の幻灯の製作にも関わった経緯、また、1950年代の国民的歴史学運動が、1960年代の商業アニメーションの興隆に繋がる系譜など、1940年代から60年代にかけての映像メディアの社会的機能の変遷についての一端を解明することができた。 調査・研究の成果については、研究代表者及び各研究分担者が、図書の分担執筆、学会発表、学会誌への論文投稿を行ったほか、一般向けの上映イベントを複数回開催した。原爆の図丸木美術館で開催した版画家・鈴木賢二による1950年代の幻灯作品の上映、神戸映画資料館で開催した映画俳優・望月優子の監督作品の上映など、有名アーティストが社会運動に関連して制作した、従来ほとんど存在を知られてこなかった作品を紹介した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、全国のアーカイブでの資料調査を行う。とりわけ日本労働組合総評議会~国民文化会議関連資料及び映画サークル運動関連資料の所在状況を確認し、必要に応じて修復・保存措置を行う。前年度に新たに発見した資料については、目録を作成し、所蔵元アーカイブとの共有を進める。また、1950年代の社会運動・文化運動に直接関わった当事者の協力を得て、オーラル・ヒストリーの収集も継続していく。 2019年度山形国際ドキュメンタリー映画祭自主企画として、新規発見資料を含む幻灯及び映画上映2プログラムを、山形大学映像文化研究所との共催により開催する。プログラムのテーマは「絵本作家の幻灯作品」及び「炭鉱と映像メディア」を予定している。第1部は子ども連れでも参加可能なイベントとし、第2部においては、三井三池争議を中心に、炭鉱における労働運動の一環としての自主的な映像の活用を検証する予定である。その他、一般向けの上映イベントを各地で開催する。 これまでの調査・研究成果を英語論文にまとめ、査読付国際学会誌に投稿する。投稿先としてはJournal of Cinema and Media Studiesを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に所属組織の改組等の事情で多忙となり、当研究の活動が困難だった研究分担者がいたことから生じた次年度使用額については、資料保存・修復費、山形国際ドキュメンタリー映画祭に係る英語字幕製作費用等で使用する予定である。
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