研究課題
新型コロナウィルス感染症の流行により、今年度に予定していた各地での資料調査及び聞き取り調査、上映イベント開催、国際学会参加などは断念を余儀なくされた。そのため、今年度は過去に収集したフィルム資料の整理及び修復作業に注力した。「大東亜戦争」(アジア・太平洋戦争)期には、文部省が標準規格として選定した35㎜映画用フィルムを用いた幻灯以外に、日本幻燈社が開発したセロファン製の「日本幻燈」、実物投影機用の紙フィルムなど、複数のタイプの代用資材を用いたロールフィルム式幻灯が流通しており、国策教育・宣伝等に活用されていたことが判明している。2020年度は、研究代表者鷲谷が個人的に入手した「日本幻燈」セロファン製フィルム7点、神戸映画資料館蔵の「日本繪映社」紙製幻灯フィルム、大阪くらしの今昔館所蔵の戦時期セロファン製フィルム及び紙製フィルム等の資料を、各所蔵機関の協力を得て、専門業者に委託して修復・デジタル復元した。とりわけ、セロファン製ロール式フィルムについては、経年劣化が激しく、ロールを開くことで破損する恐れが大きかったため、従来は中の画像を確認することができずにいたが、修復・復元作業の結果、画像全体を確認することができた意義は大きかった。今年度は、従来はほとんど実態が知られていなかった代用資材幻灯の調査を通じて、戦時期に大政翼賛会の主導したローカルな社会啓蒙運動の一端を明らかにすることができた。戦時期の「日本幻燈」等の代用資材幻灯は、日本画家、漫画家、絵本作家などが作画を担当し、カラー映像の実現にも先駆的に取り組んでいたことが明らかになっている。こうした視覚面の魅力を高める試みが、占領期以降の幻灯のさらなる需要拡大に繋がったと考えられる。以上の成果については、2021年3月25日にオンラインで開催した2020年度成果報告会(一般公開)で報告及び質疑応答を行った。
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人文學報
巻: 116 ページ: 37-51
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