研究課題/領域番号 |
18K02036
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
西田 心平 北九州市立大学, 基盤教育センター, 教授 (00449547)
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研究分担者 |
川口 隆行 広島大学, 人間社会科学研究科, 教授 (30512579)
楠田 剛士 宮崎公立大学, 人文学部, 准教授 (20611677)
高山 智樹 北九州市立大学, 文学部, 准教授 (70588433)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦後文化運動 / 北九州 / 八幡製鉄所 / 職場雑誌 / サークル誌 |
研究実績の概要 |
2021年度の目標は、1950年代以降に発行された労働者のサークル誌を収集し、書き手やその作品群を検討することであった。具体的には『製鉄文化』、『日曜作家』、『新社会派』、『労働北九州』、『緑と太陽』など、主にかつて八幡製鉄所で働いていた労働者が主導した職場雑誌、同人誌、サークル誌である。とくにこれらの雑誌の立ち上げと発行を主導した佐木隆三の表現の軌跡をたどった。そこで明らかになったことは以下の5点である。 第1に、佐木が表現を開始した八幡製鉄所が発行する『製鉄文化』はサークル誌と規定することはできないが、北九州において文化運動が育つ地盤として寄与してきた雑誌であることは確かである。 第2に、しなしながら、『製鉄文化』については、労働者にとって集団での文化創造のための媒体としては位置づけられていなかったと思われる。 第3に、その上で、あらためて戦後の北九州における文化運動の水脈として、『日曜作家』から始まる『新社会派』、『労働北九州』、『緑と太陽』という雑誌の流れを確認することができる。 第4に、上記の文化運動の一端を形づくった人物の一人として佐木隆三を挙げることができるが、その運動が発した問いかけもまた佐木が向き合った当時の労働現場の中から生まれたものである。つまり、「孤独」と「競争」に追い込まれていく鉄鋼労働者の現実とそれに抵抗できない組合運動への危機意識が背景にあった。 第5に、こうした動きが北九州における企業と地域との関係を問い直そうとする運動につながった。その一つが北九州国民文化会議の設立である。企業城下町といわれる北九州において、文化の創造を掲げつつ、文学や美術、社会科学、演劇など様々なサークルとの連帯を作り出そうとした運動の意義は評価されてよい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
八幡製鉄所が発行していた『製鉄文化』の意義をサークル誌への書き手の視点から相対化することが2021年度の目標であったが、その点については佐木隆三による表現の軌跡を明らかにすることである程度達成することができたことから「おおむね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2022年度は、八幡製鉄所を中心とした文化サークル運動における労働者の思想の系譜をまとめることを中心に行う。具体的には、北九州市立文学館との共催にて、これまで収集・検討した職場・サークル雑誌等の展示企画を行うことで遂行する。 戦前の産業・文化報国会とのつながりを持つ「八幡製鉄所親和会の系譜」、「戦後の労働組合運動の胎動」、「職場雑誌『製鉄文化』の発行」、「同人誌、サークル誌の叢生」の流れを軸としながら展示を企画する。 こうした軸をなす書き手として岩下俊作、山下敏克、佐木隆三、深田俊佑、波佐間義之などを取り上げながら、彼らが主導した映画作品、研究会、雑誌、創作などを展示しながら、戦後文化運動における地方都市の光芒を浮かび上がらせるものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響もあり年2~3回の研究会をリモートのみで行ったことが大きかった。最終年度となる次年度は、北九州市立文学館での展示会を通じて研究成果を公表することとする。 そのために次年度使用額については、対面での研究会の実施、職場雑誌の収集だけでなく文学館展示のためのパネル作成、展示設営、チラシ作成、冊子づくり等のために有効に使用する予定である。
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