研究実績の概要 |
2019年度は、前年度に明らかにした『公共性の構造転換』の時間・歴史構造の生成過程に焦点を合わせて研究を進めた。すなわち、この時間・歴史構造は「唯物論への移行における弁証的観念論」(1963年)で再構成されたシェリングのそれを翻案・移植したものと考えられるが、かかる時間・歴史構造が、もうひとつのシェリング論--「絶対者と歴史――シェリング思想における内的矛盾について」(1954年)--からどのように生成・発展してきたかを明らかにすることを試みた。 この試みで、①「絶対者と歴史」はハイデガーの思想によって強く規定されていること、しかし同時に②マルクス主義の受容がその構成に影響を及ぼしはじめていることを確認した。そのうえで、③①のために同論文と「唯物論への移行における弁証的観念論」(1963年)ではシェリング論の構成に大きな相違が生じていること、したがって④「絶対者と歴史」にハーバーマス思想の原型を発見しそこから無媒介にその後の理論展開を再構成することは適切でないこと、この点で⑤Keulartz(1995)のハーバーマス論はシェリング論に注目した点では本研究課題にとっても最重要の先行研究ではあるが、同時に修正が必要であることをを明らかにした。 また、2019年度は、以上の成果を部分的に取り込みながら、前年度の研究成果を学術論文にまとめ、「J・ハーバーマス『公共性の構造転換』のシェリング主義的基礎―「進歩の消滅」のもとで実践的であることの可能性」(『社会学史研究』第41号)として公開した。
Keulartz, Jozef, 1995, Die verkehrte Welt des Jürgen Habermas, Hamburg, Junius.
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