ユルゲン・ハーバーマスの『公共性の構造転換――市民社会の一カテゴリーについての研究』(1962年)は、公共性の解体傾向の認識とその再生への期待との相反によって引き裂かれた作品として、理解されるに至っている。本研究は、この矛盾・分裂に関わらず、それを整合的・統一的に、ひとつの作品として読むことはなお可能か、可能であるとすれば、それはいかにして可能かを、核心的な問いとして設定した。 本研究は次の諸点を明らかにした。①『公共性の構造転換』は、シェリング論を前提にすることで、整合的・統一的に読むことが可能である点(主に2018年度の成果)。ハーバーマスは、もうひとつの神(=人類)の自由の濫用による腐敗から他ならぬそのもうひとつの神(=人類)の再起によって解放されるという論理を、シェリングに読み取ろうとしていた。この論理によって『公共性の構造転換』は構造化されており、上述の矛盾・分裂は解消される。②ハーバーマスのまとまったシェリング論は博士論文「絶対者と歴史――シェリング思想における内的矛盾について」(1954年)と「唯物論への移行における弁証法的観念論--神の収縮というシェリングの理念の歴史哲学上の諸帰結」(1963年)と二編あるが、『公共性の構造転換』の直接的な前提となるのは後者である点(主に2019-20年度の成果)。博士論文はハイデガーの思想的影響を強く受けているが、その後、マルクスの影響が強まり、後者でシェリングを再論するに至っているからである。③①のように構造化されている『公共性の構造転換』は、進歩を同時に退歩として洞察せざるをえず、批判の基準を喪失しかねない現代批判理論にとって、立ち返るべき遺産のひとつである点(主に2021年度の成果)。 2021年度の成果については論文として最終的に公開するところまでは至っていない。22年度中に論文で公開することを予定している。
|