研究実績の概要 |
本研究の目的は,保育における子どもの造形的な製作活動が多様な子どもの発話や非認知的能力の伸長を促すことを実践的に明らかにすることにある。方法としては,子どもの製作活動の質や創造性と,それによって促される発話や非認知的能力の5つの指標 (安心,主体性,共同性,興味,創造性)の発達との相関を分析し,チャートによってその結果を可視化した。研究対象としては,以下の事例を対象に分析を行った。 ・天童東幼稚園:「土ねんどでつくる」および,「ダンボールでつくる「きょうりゅうワールド」」(年長児) ・山形大学附属幼稚園:「誕生日の掲示物」(年中・年長児)「おりょうりプレート」(年少児) 結果として,質の高い製作活動を促すことが子どもの発話や非認知的能力の活性化にとって有効であることを明らかにした。「誕生日の掲示物」や「おりょうりプレート」においては,作品について子どもから聞き取りを行うなかで,子どもが製作活動に持つイメージや物語が,作品に対する発話を生み出し,またそのようなイメージや物語が作品製作を促進する原動力であることが確認された。 質の高い製作活動は,見立てや工夫,試行錯誤といった創造的行為を内包するとともに,発話や非認知的能力の発達につながる行為を促している。子どもの製作活動における創造性と非認知的能力の伸長を架橋するのはイメージの力であり,保育者は製作活動を促進するイメージを子どもたちが形成し,共有していくよう支援する必要があると考察した。 本研究の成果の一部を,「子どもの製作活動における発話と非認知的能力の活性化」として論文化し,大学美術教育学会誌『美術教育学研究』第 51 号(2019年3月)に投稿し,採択された。
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今後の研究の推進方策 |
子どもの育てたい非認知的能力の見取りや評価の客観性を高めていくことや,素材やテーマの吟味も含め,どのような製作活動およびその積み重ねが発話や非認知的能力を伸長させていくのかを継続的に研究していくことが必要である。また,今年度の研究では,個々の事例を質的に分析することに重点を置いていた。そのため,以下の方策が必要である。 1)発話と育てたい非認知的能力との相関について分析をおこなうこと:発話の内容を分析し,どのような言葉が育てたい非認知的能力の5項目(安心,主体性,共同性,興味,創造性)にあてはまるのか,またどのような発話がそれぞれの項目の質的な高まりを示すのかが明確になれば,看取りや評価の客観性が高まると考えられる。今後は発話のデータマイニングなどの手法も取り入れた分析を行い,評価の客観性を高める必要がある。 2)製作活動による発話や非認知的能力の活性化を段階的に示すカリキュラムの開発:幼児期は子どもの諸能力の伸張が時期によって大きく異なることから,幼児期の終わりまでに育てたい姿を視野に入れたうえで,年少・年中・年長それぞれの時期にどのような非認知的能力をどこまで育てるのか明確にし,それぞれの時期における有効な活動を選択する必要がある。そのため,製作活動をはじめとする幼児の諸活動における発話や非認知的能力の発達の分析から,それぞれの時期における諸能力の発達を可視化するチャートの標準的な姿を明確にし,それぞれの時期にふさわしい製作活動を配置したカリキュラムを策定したい。製作活動のどのような特性が非認知的能力のどの面の伸張に関して有効であるのか,また発達段階との相関からどの段階でどのよぷな製作活動を行うことが非認知能力の伸張にとって有効なのかを明らかにすることにより,カリキュラムにおける製作活動の位置づけに対して有効な提言を行うことができるものと考える。
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