研究課題/領域番号 |
18K02471
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研究機関 | 大阪成蹊大学 |
研究代表者 |
松阪 崇久 大阪成蹊大学, 教育学部, 准教授 (90444992)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 音遊び / 保育 / 幼児教育 / 領域「環境」 / 領域「表現」 / 領域「人間関係」 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、保育における幼児の音遊びとその援助の実態を明らかにし、そのあり方について考察することである。そのために、幼稚園の幼児の音遊びと保育者による援助の場面の観察をおこない、ヒトにもっとも近い動物であるチンパンジーの表現的な遊びとも比較しながら、保育の中での音遊びの援助・指導のあり方を考察していく計画である。 平成30年度には、まず、チンパンジーの遊びとの比較から見えてくることについて整理した。ヒト幼児の音遊びと、そこでの学びの体験やコミュニケーションについて、チンパンジーとの連続性とヒトの独自性を明らかにした。 まず、ヒトの表現行為の根源を理解するために、チンパンジーとの連続性について考察をおこなった。好奇心や社会的学習、創造性など、遊びを通した育ちや学びにおけるチンパンジーとの連続性が明らかになった。また、好奇心に基づく環境との探索的な関わりが多様な表現的遊びを生むことも、チンパンジーとの共通点として指摘できた。環境との探索的な関わりの豊かさが、五感による感性の育ちを支え、それが表現活動の豊かさにつながるのだと考えられる。幼稚園教育要領・保育所保育指針の改定においても、環境との関わりに注目して子どもの表現の育ちを見ることの重要性が強調されるようになっているが、以上の結果から、領域「環境」の視点から表現活動を捉えることの重要性について議論した。 ヒトの独自性については、共同注意や三項関係などの「関心の共有」や、「教育」的な関わりがヒトに特徴的であることを確認した。また、想像の世界の広がりや、音の規則性の現われにも、チンパンジーとの違いがあると考えられる。これらの結果を踏まえて、今後、音遊びの体験を深めるための社会集団や保育者の関わりの意義について分析と考察を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、幼児の音遊びと保育者による援助についての観察データを幼稚園で収集することが平成30年度の調査の中心となる計画であった。しかし、所属機関の異動で環境が変化したことにより、学外での調査によって観察データを得ることが充分にできなかった。そのため、当初、平成31年度に実施する予定であったチンパンジーとの比較を先におこなうことにした。これまでに収集してきた野生チンパンジーの表現的な遊びのデータを整理することで、ヒトとの連続性とヒトの特徴を明らかにすることができた。 以上の計画の変更により、初年度からその成果について学会等での発表をおこなうことができた。また、ヒト幼児を対象とした今後のデータ収集と分析において注目するべき点を整理することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、幼稚園での観察を継続し、幼児の音遊びの多様性と保育者による援助の実態について明らかにしていく。観察では、設定保育の音楽的活動だけでなく、自由遊びの中で音に関心を持つ場面にも注目し、保育者の関わり方も含めて記録する。遊びへの保育者の参加や言葉がけといった直接の関わりだけでなく、多様な素材の用意などの環境構成への配慮についても記録する。適宜、自由に触れられる楽器などを導入した実験的場面の観察もおこない、幼児の音楽的な経験をより深める方法を探る。 分析と考察は、初年度の研究で明らかになったチンパンジーとの連続性(環境との関わりの重要性など)と、ヒトの特徴(関心の共有や教育的関わりなど)にとくに注目して進める。領域「表現」だけではなく、領域「環境」と領域「人間関係」の視点を加えて、幼児の音遊びの体験を深めるための環境や保育者の関わりについて考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度には財団からの単年度の研究助成金が得られることとなったため、書籍などの物品費や出張旅費について科研費からの使用を減らすことができた。今年度も、昨年度同様に隣接領域の学会も含めて参加し、情報収集、発表、討論をおこなう予定である。また、今年度は国際会議での発表も考えており、英文校閲なども必要となる予定である。
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