令和2年度(最終年度)の研究成果は次の3点である。1点目は,不信社会問題という我が国の財政が直面する社会問題を教材した小学校社会科の授業モデルを開発したことである。具体的には,税負担が小さくその受益を実感させることが難しい我が国の財政が政府や社会に対する人々の不信感を強めていることを学習させ,よりよい財政のあり方を児童に検討させる授業を開発した(「学会発表」参照)。 2点目は,上記1点目の研究成果を発展的に活用した中学校社会科授業を開発・実践したことである。具体的には,「政府の役割と国民の福祉」という公民的分野の教科書紙面に即して全4時間の単元を開発し,その実験授業を熊本大学教育学部附属中学校の3年生を対象に2021年1月に実施した。実験授業の結果,「我が国の税負担は重い」「税は生活を苦しくする」など,我が国の財政や税制に対する生徒のマイナス・イメージを大きく変容させることができる社会科授業であることが明らかになった。 3点目は,上記1点目の授業モデルの実験授業を熊本県内の公立小学校で実施しその有効性を確かめたことである。具体的には,「税金について考える」という全3時間の単元を構成し,その実験授業を小学校の6年生を対象に2021年3月に実施した。実験授業の結果,「税金の無駄遣いが多い」「税金は少ないほどよい」といった児童の固定観念を覆して,税金は「私たちを支えるもの」という建設的な租税意識を育成する上で極めて効果的な社会科授業であることが明らかになった。 以上の通り,令和2年度は,民主的な国家・社会の形成者にふさわしい租税意識を育成する小学校・中学校社会科の授業を開発・実践し,その有効性を確認した。
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