研究課題/領域番号 |
18K02607
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小川 雅子 山形大学, 地域教育文化学部, 名誉教授 (40194451)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 神話の書き替え / 神話教材 / 再話教材の問題 / 伝統的な言語文化 / 学習者の読書興味 / いなばのしろうさぎ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、神話教材とその指導をめぐる現状の課題を明らかにして、神話というジャンルの独自性に応じた教材化と指導方法を開発して、それを小・中学校の国語科教育に位置づけることである。 前年度までは、現行教科書の「いなばのしろうさぎ」(4社)を比較検討して、どれもが原典の神話性を削除した昔話譚・教訓譚として独自に書き替えられていることを明らかにした。さらに、神話以外の再話教材について、学習者の読みをめぐる授業研究を行った。その結果、再話教材には、再話化の過程にそれぞれ固有の問題が存在しており、それが学習者の読みに強い方向性を与えていることがわかった。 本年度は、戦前と同じように現代の教科書でも、多義的な神話が一義的に書き替えられている原因について、まず「戦後の古典教育環境」に遡って考察した。終戦直後、古典教育が否定された当時の研究者や実践者の論文、学習指導要領の変化等を考察した。そして、戦後古典教育が復活して「基本的な古典」が位置づけられたのは、古典作品の中に戦後の価値観に合うものが指摘されたからであったが、神話については、その試みがなされないままであった。また、「いなばのしろうさぎ」について、原典・注釈書・現代語訳・絵本などの表現を比較して、再話表現の傾向と時代による変化を明らかにした。さらに、近年の神話研究が、戦後から大きく進展していることを指摘した。 学習指導要領には、「伝統的な言語文化を享受し」というねらいが示されているが、現実には、神話教材だけでなく、万葉集教材や竹取物語教材なども、国語教科書によって、それぞれの時代の価値観に応じた内容に読み替えられ、書き替えられていることを指摘した。 また、児童の読書興味の実態調査を行い、神話についての関心度を調べたところ、日本神話に対する関心は極めて低い一方で、ギリシア神話は興味をもって読まれていることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、感染症の影響で、小・中学校から大学までの授業のあり方が例年とは異なり、以下の活動ができなかった。 一つは、資料収集・講演会・研究発表等である。戦後の古典教育の中で、神話が他の古典作品とは異なる扱いを受けてきたことには、様々な要因がある。その問題についての知識を深めるための資料収集や原典である『古事記』研究者の講演を予定していたが、実現できなかった。 二つ目は、教科書教材と原典とを比較しながら読む授業の提案を行う計画があり、そのための教材作りと授業構想について、研究協力者と立案する予定であった。しかし、この授業提案を小・中学校で行うことができなかった。 そこで、このような状況下において出来ることとして、授業提案の内容を充実させるために、教材化をめぐる問題について考察した。教材化には常に、古典作品の現代的価値が求められていることを確認し、近年の神話研究の進展から、神話の現代的価値について考究した。
|
今後の研究の推進方策 |
第1に、教材開発として、近年の神話研究の進展をまとめて、神話の現代的価値について説明した教材文を作成する。 第2に、「いなばのしろうさぎ」の原典と再話を比べ読みする教材を開発する。指導方法についても、他の文学教材のように、人物像や心情の変化に重点を置くのではなく、神話の比喩性に着目する方法によって、授業提案を行う。 第3に、日本神話を外国の神話と比較して読むための教材を開発する。「天地創造・国生みの話」・「黄泉の国・死者の国の話」・「太陽と月の出現と働き」について、日本神話の教材は作成しているので、ギリシア神話・創世記・中国神話から対応する内容を選んで、古代人の世界認識を比較して考える教材を開発する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
感染症流行拡大の影響により当初予定していた計画が遂行できなかったため、旅費・講演会関連経費、授業実践関連経費、授業提案DVDの作成等経費などの執行ができなかった。 次年度には研究成果報告書の作成も含めて使用する。
|