研究課題/領域番号 |
18K02607
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小川 雅子 山形大学, 地域教育文化学部, 名誉教授 (40194451)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神話教材 / 神話の概念 / 『古事記』受容史 / 新比較神話学 / 古典教育 / 再話教材 / 神話の教材化研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、国語教育における神話教材とその指導をめぐる現状の課題を明らかにして、神話というジャンルの独自性に応じた教材化と指導方法を開発して、それを小・中学校の国語教育に位置づけることである。 昨年度までの研究では、小学校4社の教科書教材「いなばのしろうさぎ」を比較検討して、どれもが原典の神話性を削除した昔話・教訓話に書き替えられている事を指摘した。さらに、『古事記』原文・新旧の注釈書・現代語訳や口語訳・再話等を比較して、再話には書き替えの要素が多いが現代の再話は原典に即した内容になっていることを明らかにした。そして、神話が戦後の古典教育において顧みられなかった原因を考察した。また、小学生の読書傾向を調査して、日本神話はほとんど読まれていないがギリシア神話は読まれていることを明らかにした。 今年度は、戦後の古典教育における神話不在の原因について研究し、国語教育における「神話の概念」が戦前のままで検討されてこなかった問題を指摘した。その間に、近代神話学は大きな発展をとげ、世界の神話を視野に入れた観点からの『古事記』研究は飛躍的に進んでいた。そこで、ユングの神話研究の観点から河合隼雄の「中空構造論」、イェンゼンの神話と文化の関係から『古事記』の世界神話との関係性、デュメジルの比較神話学の観点から『古事記』の構造、レヴィ・ストロースの構造分析の観点から『古事記』の一貫性などが解明された内容について考察した。さらに、『古事記』の受容史を考察して、国語教育における学習者主体の神話の享受と解釈の方向性を明らかにした。 また、『古事記』原典を尊重して作成した紙芝居が、保育所・親子寺子屋・地域の親子対象の企画等において実演された。各演者の事前研究によって、子どもも親も集中して視聴した読み聞かせが実現し、初めて知る神話の内容に対する驚きや疑問、感動等の感想や意見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国語教科書の再話教材「いなばのしろうさぎ」の比較調査から、『古事記』原典と注釈書、現代語訳等を含めて考察した結果、教科書教材に共通する書き替えの問題が明らかになった。そのような書き替えが共通して行われている原因は、戦前から戦後の国語科に一貫している「神話の概念」にあると考えた。そのため、現代神話学の研究成果に学びながら、世界の神話を視野に入れた観点から『古事記』の内容を検討し、『古事記』受容史の検討を行った。そして、国語教育における「神話の概念」の偏りと、それを再構築する必要性、さらに、学習者主体の授業の構想の観点を明らかにした。 また、当初の計画では、小・中学校の児童・生徒を対象として、『古事記』原典の内容を尊重した紙芝居を実践して教材化にむけた調査をする予定であった。感染症の流行による学校の授業や行事等への影響は昨年度も続いており、調査を依頼するすることが困難になった。 しかし、保育所や親子寺子屋、地域の青年会議所主催の企画で実践していただくことができた。それぞれの演者による事前研究や実践報告から、幼い子どもたちが紙芝居の読み聞かせに集中している様子や、親子の感想の言葉を得ることができた。幼児から大人までの『古事記』受容をめぐる具体的な反応を通して、発達段階に応じた教材の内容、教材文の長さ、解釈の多様性と文章のまとまり等、次年度の教材開発研究の重要な示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、紙芝居による『古事記』の読み聞かせを続けて、広く疑問や意見、感想等を収集するとともに、具体的な教材文の作成と指導方法の提案を行う。具体的には、次の3点になる。 1.これまでの『古事記』解釈をめぐる研究、紙芝居実践を通して得られた幼児から大人までの感想を通して、現代的観点から発達段階に応じた神話の教材文を作成する。 2.「いなばのしろうさぎ」の原典と再話を比べ読みする教材を開発する。比べ読みによって、学習者自身が神話の特徴に気付くことができる。その上で、他の文学的文章教材のように、人物像や心情の変化に重点を置くのではなく、神話の比喩性に着目する読みの指導方法を提案する。 3.日本神話を外国の神話と比較して読むための教材を開発する。具体的には、「天地創造・国生みの話」・「黄泉の国・死者の国の話」について、ギリシア神話・創世記・中国神話を比較して、古代人の世界認識について共通点と相違点を知る教材を開発する
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、資料収集や調査に出かけることができなかったので、旅費の分が未使用である。 今年度、教材文と指導の手引きの冊子を作成するつもりであり、それを協力校の児童・生徒二配布する予定なので、その印刷代、発送代として使用する。
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