本研究の目的は,反転授業における講義動画による事前学習前の認識的な準備不足の課題に着目し,講義動画を視聴させる前に学習者の関連する事前知識や認識的認知を活性化する準備過程(認識的準備活動:EPA)を統合した反転授業の拡張モデルを構築することである. R3年度の研究活動では,1)教材コンテンツの追加,2)実践データの分析を行った.1)については,令和4年度から施行される高等学校・数学Iデータの分析で新たに追加された「仮説検定の考え方」向けの教材コンテンツを,EPAを統合した反転授業に沿って開発した.具体的には,「健康サプリ」をテーマに,親子の会話から健康サプリの有効性有無に関する問題を設定し,その有効性を検証するミッションにつなげるシナリオを作成し,生徒が二項分布を仮定した無作為抽出の反復を行って結果を分析するためのツール機能を実装した.2)については,前年度の研究活動で明らかになった「個人でEPAに取り組んだ方が講義動画を反復視聴する傾向」を踏まえ,個人EPAにより学習(内容)に対する心理的価値が変化するかについて実践データを分析した.その結果,EPAを統合した反転授業の事前事後で心理的価値に有意な変化は確認されなかった一方で,事前の心理的価値の程度によって動画の視聴スタイルに違いがあることが示唆された.具体的には,受講生が学習内容の価値を認識している場合は自身にとって必要な動画を選択的に視聴し,受講生の価値認識が強くない場合は探索的に視聴する傾向が観察された.
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