研究課題/領域番号 |
18K02911
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
尾澤 重知 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (50386661)
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研究分担者 |
森 裕生 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 助教 (00758617)
江木 啓訓 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (30422504)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アクティブラーニング / 学習プロセス / 理解プロセス / ライティング / グループ学習 / 振り返り |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、学生の授業理解のプロセスの特徴を明らかにすることで、理解や状況に応じた学習への適切な介入方法を提案すること、及び教授支援方法を検討することである。 これを実現するために本研究では、大学教育におけるアクティブラーニング型の授業を対象として、学生が「何を書いているか(ライティング)」「どのような思考をしているか」について、授業中の学生の行動と理解のプロセスの検討を行っている。 研究手法としては、学生がワークシート等に記入している内容をリアルタイムで把握するデジタルペンを用いて、学生の授業中のライティングのプロセスや内容の分析を行っている。また、授業中の学生の思考のプロセスを検討するために、疑問を随時、ワークシートに書くことを促す手法を開発し、その評価を行った。 2018年度春学期、秋学期に実施した授業実践研究、及び、その前提となる実験的研究を通して、以下のことを明らかにした。第一に、ライティングに関して、約2割の学生が、本来、ワークシートに記入すべき時間ではない時間(グループ学習や講義中)に、何らかの記入を行っており、これがグループ活動や授業理解の妨げになっている可能性が示された。また、事後のインタビューの結果、このような活動は、ワークシートの記入内容が自身の成績評価と直結しているという誤認識から生じている可能性が示された。学生の評価懸念や、評価指標の理解を、どのように変えていくかが、今後重要になってくると考えられる。 第二に、疑問を随時書かせる試みは、授業内容の理解度が高い場合には有効だが、低い場合には逆に理解の妨げになっていることを明らかにした。一方、ノートテイキングを得意としていない学生にとっては、疑問を随時書かせるという介入方法が授業へのコミットメントを高め、授業の振り返りを通した理解深化にも肯定的な影響を与えている可能性を示唆できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、実際の大学教育現場を対象とした授業実践研究であり、研究代表者が所属大学で開講している授業(学部・大学院)を研究対象としている。いずれもアクティブラーニング型の授業であり、前期・後期各2科目の実践を研究対象としている。2018年度は、予定通り授業実践の中で、ライティングプロセスやグループ学習プロセスについて必要なデータを得ることができた。 研究実績の概要で示したように、具体的な研究手法としては、学生がワークシート等に記入している内容をリアルタイムで把握するデジタルペンを用いて、学生の授業中のライティングのプロセスや内容の分析を行っている。また、授業中の学生の思考のプロセスを検討するために、疑問を随時、ワークシートに書くことを促す手法を開発し、その評価を予定通り行った。 当初予定していた画像解析は、利用予定だった(株)オムロンの画像センシング技術ヒューマンビジョンコンポ(HVC)の一部製品の販売終了などの影響を受け、代替手段の構築に時間を要した。しかし、2019年1月以降、遅れを取り戻すことができた。 現状得られたデータ分析でも、ライティングに関して、約2割の学生が、本来、ワークシートに記入すべき時間ではない時間(グループ学習や講義中)に、何らかの記入を行っていること、また、これを量的に推定することが可能であることを明らかにするなど成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に関連する成果(網岡など 2018)では、ワークシートの記載内容と、学習成果との関係を定量的に検討し、ワークシートの記述量の変動が重要な指標になることを明らかにしてきた。これに本提案のライティングのプロセスの検討を加えることで、どこで学習者がつまづき、どのようなフィードバックを返すことが適切かを明らかにすることが、本研究の最終的な目標である。これまでの研究では、本来ライティングすべきではない時間に書く行為が学習の阻害になっていると考えられるため、この改善策を検討する。 また、事後のインタビューの結果、このような活動は、ワークシートの記入内容が自身の成績評価と直結しているという誤認識から生じている可能性が示されているため、学生の評価懸念や、評価指標の理解の変容にも着目した研究を行っていきたい。 また、疑問を随時書かせる手法は、授業内容の理解度が高い場合には有効だが、低い場合には逆に理解の妨げになっており、低い場合の介入方法を検討している。 本研究は、これまで申請者が実績のあるライティングプロセスの計測に加え、新たな教授法(発話思考法のライティングへの応用)や表情計測を組み合わせる内容であり、研究の独自性の高さと、実現可能性を両立しているが、画像解析など技術の変化が大きい領域でもあるため、最新の技術動向にも目を向けていく必要がある。 共同研究者の江木、森らとは、定期的に研究の進捗報告を行っており、これを継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では画像解析に関して、(株)オムロンの画像センシング技術ヒューマンビジョンコンポ(HVCシリーズ)を利用することを想定していた。しかし、HVC-C2Wが生産終了となり、入手が困難になった。2019年1月に代替手段を検討したが、2018年度内の購入を見送ったため。既に代替案で研究を行っているため、研究全体には支障は生じていない。
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