研究課題/領域番号 |
18K03186
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
日野 泰志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00386567)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 漢字三字熟語 / 形態素プライミング効果 / 関係プライミング効果 |
研究実績の概要 |
今年度は、複数の漢字で構成された漢字熟語を読む際に、個々の漢字に対応する形態素への分解と、語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在するかどうかについて検討するための研究を中心に行った。漢字三字熟語には、先頭の漢字が後続の二字熟語を修飾する構造を持つもの(e.g., 重工業)と先頭の二字熟語が後続の単漢字を修飾する構造を持つもの(e.g., 図書館)とが存在する。そこで、先行して提示される漢字三字熟語プライムと後続して提示される漢字三字熟語ターゲットとの間の形態素構造の一致による関係プライミング効果を語彙判断課題を使って検討した。同時に、この課題では、漢字熟語ペアの先頭漢字の共有によるプライミング効果についても合わせて観察を試みた。関係プライミング効果が形態素の統合処理の段階で生じる効果であるなら、この効果を観察するためには、単漢字と漢字二字熟語を統合することで、はじめて実在語であるかどうかの判断が可能となる課題設定が必要である。そこで、この実験では、非語刺激として実在する単漢字と二字熟語を組み合わせた非語(e.g., 菌誠実、芋宇宙)を用いた。 実験の結果、先頭漢字の共有によるプライミング効果と形態素構造の共有によるプライミング効果の両方が観察された。ただし、これら二つの要因間には、交互作用は認められなかった。この結果は、これら2つのプライミング効果が異なる処理段階で生じる効果であることを示唆する。すなわち、先頭漢字の共有によるプライミング効果は、形態素への分解処理の段階で生じる効果であるのに対し、形態素構造の共有による関係プライミング効果は、個々の形態素レベルの表象を語全体レベルの表象に統合するプロセスにおいて生じる効果であることを示唆するものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究を通して、漢字熟語を読む際に、形態素への分解のプロセスと、分解された形態素を語全体レベルの表象に統合するプロセスとが介在する可能性を示唆するデータを確認することができた。また、実験では、プライム-ターゲット間の先頭漢字の共有と形態素構造の共有の二要因間には、交互作用は観察されなかった。この結果は、先頭漢字の共有による形態素プライミング効果と形態素構造の共有による関係プライミング効果とは、異なる処理段階において生じる効果であることを示唆するものである。つまり、漢字熟語を読む際には、個々の漢字に対応する形態素レベルの表象が活性化される処理プロセスに加えて、形態素構造に依存した形態素の統合処理が行われるプロセスとが、独立に機能しているものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
漢字熟語を読む際に漢字に対応する形態素の活性化と活性化された形態素を語全体レベルの表象に統合するプロセスの存在を示唆することができたことから、さらに、この仮説の妥当性の検証を実施したいと考えている。語彙判断課題では、使用する非語刺激によって、課題遂行に含まれる処理をある程度制御できる可能性が高い(e.g., Taft, 2004)。例えば、関連のない漢字三文字を組み合わせて作成した非語(e.g., 毒電明、劇字者)を使うと、分解した個々の形態素(漢字)を組み合わせて二字熟語を作成できなければ、その段階で非語であることが明らかとなるはずである。そのため、語-非語判断の遂行に統合のプロセスは必要ないことになる。一方、単漢字と二字熟語を組み合わせて作成した非語を使った場合(e.g., 菌誠実、芋宇宙)には、統合が完了できるかどうかで語か非語かが判別されるものと考えられる。これが正しいなら、関連のない漢字を組み合わせて作成した非語を使った場合には、統合のプロセスは十分に機能しないため、関係プライミング効果は観察されないはずである。一方、先頭漢字の共有による形態素プライミング効果は観察されるはずである。こうした予測が正しいかどうかを検討することで、漢字熟語を読む際に、形態素への分解と語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在することをさらに明確に示したい。 また、新たに、漢字熟語を構成する漢字が持つ形態-意味対応の一貫性の測定に関する作業についても進めて、漢字の形態-意味対応の一貫性という変数が漢字熟語を読む際にどのような役割を果たしているのかという問題についても取り組んで行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、ワークステーションの購入を計画していたが、実験参加者と研究補助者への謝礼の支払い額が予定よりも多かったことから、ワークステーションの購入を次年度に繰り越した。繰り越し額は、予定通り、ワークステーション購入のために充てる予定である。
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