研究課題/領域番号 |
18K03186
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
日野 泰志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00386567)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 関係プライミング効果 / 語の形態-意味対応の一貫性効果 / 漢字の形態-意味対応の一貫性効果 |
研究実績の概要 |
2021年度は、漢字熟語を読む際に、個々の漢字に対応する形態素への分解と、語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在するかどうかについて検討するための実験を継続し、さらに、語の形態-意味対応の一貫性が語の認知課題の成績に及ぼす効果について検討した。 前者の研究では、実験データの収集が完了した。 後者の研究では、語の形態-意味対応の一貫性を操作した刺激セットを作成し、2020年度に、実験刺激を“関連なし”試行に提示した関連性判断課題を実施したところ、行動データには、一貫性効果は観察されなかったものの、事象関連電位、特に前頭部の電極のN400の振幅に、有意な一貫性効果が観察され、頭頂部の電極では、逆方向の一貫性効果が観察された。前頭部の電極で観察された一貫性効果は、意味活性化処理を反映するのに対して、頭頂部の電極に観察された逆方向の効果は、判断生成段階の処理を反映している可能性がある。特に、低一貫語の形態隣接語の多くは、ターゲットと関連のない意味を持つため、これらの意味活性化は、“関連なし”判断へのバイアスを生じ、行動データに一貫性効果が観察されることを妨害している可能性がある。そこで、2021年度には、実験刺激を“関連あり”試行に提示する関連性判断課題(行動実験)を実施したところ、行動データに、有意な一貫性効果が確認された。 さらに、本研究で採用した一貫性は、形態隣接語をもとに、語の形態-意味対応の一貫性を測定したものであるのに対して、Marelli & Amenta (2018)は、特定の文字列(形態素)を含む形態親類語をもとに、一貫性を計算し、この指標が語彙判断課題の成績を有意に説明したと報告している。そこで、個々の漢字に注目して、その漢字を含む形態親類語から一貫性を操作した文字判断課題を行ったところ、N400よりも以前の成分に有意な一貫性効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
漢字三字熟語を使った関係プライミング効果については、必要な被験者数分のデータ収集が完了した。 語の形態-意味対応の一貫性に関する研究では、実験刺激を“関連あり”試行に提示した関連性判断課題の行動データに有意な一貫性効果を観察することができた。 また、Marelli & Amenta (2018)は、形態親類語を使って計算した形態-意味対応の一貫性が語彙判断課題の成績を説明する有意な変数であることを報告していることから、彼らと類似の方法を使って、漢字レベルの形態-意味対応の一貫性を操作した文字判断課題を実施したところ、行動データに有意な一貫性効果は観察されなかったものの、事象関連電位の測定では、N400よりも前の成分に有意な一貫性効果が観察された。このように形態隣接語をもとに計算した語の形態-意味対応の一貫性と形態親類語をもとに計算した漢字の形態-意味対応の一貫性との間には、性質の違いがあるようなので、今後、この点をさらに検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
漢字三字熟語を使った関係プライミング効果に関する検討では、十分な被験者数のデータを収集できたため、今年度は、この研究に関する論文執筆を進めたいと考えている。 語の形態-意味対応の一貫性に関する研究では、“関連なし”試行に実験刺激を提示した関連性判断課題では、行動データには、一貫性効果は観察されなかったものの、N400の振幅に有意な一貫性効果が観察された。前頭部の電極には、一貫性効果が観察され、頭頂部の電極には、逆方向の効果が観察された。一方、“関連あり”試行に実験刺激を提示した関連性判断課題(行動実験)では、行動データに有意な一貫性効果が観察されたことから、この課題を再度実施し、事象関連電位の観察を試みる予定である。実験刺激を“関連なし”試行に提示した関連性判断課題で頭頂部の電極に観察された逆方向の一貫性効果が判断生成の性質を反映する効果であるなら、実験刺激を“関連あり”試行に提示した課題では、前頭部と頭頂部の両方で、有意な一貫性効果が観察できるはずである。この予測の検証を試みる。 また、形態親類語による漢字レベルの形態-意味対応の一貫性と形態隣接語による語全体レベルの形態-意味対応の一貫性の違いをより明確に検討するために、漢字二字熟語を刺激とした語彙判断課題において、漢字レベルの一貫性を操作し、語全体レベルの一貫性を統制した課題と語全体レベルの一貫性を操作し、漢字レベルの一貫性を統制した課題を行い、これらの2つの変数の違いを明確にするための実験を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
全額使用を心掛けたものの、研究補助者と実験参加者への謝礼として使用したところ、端数が生じてしまった。
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